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(3)

「ス、ストーップ! 盛大に話を盛ってくれてますよね?」


 言葉を遮られたヴィルジールは一瞬驚いたように目を見開いた後、今度は声を上げて笑い始めた。


「ふっ……はっ! ははははっ」


 しまった!

 王子殿下の言葉をあんな風に遮るなんて、とんでもないことしちゃった。

 言葉遣いも最悪だ。


「えっ? わっ、しまった……じゃなくて、あのっ、で……殿下、そんな嘘を広められては困ります……わ」


 慌てて必死に言い繕うと、彼は生温かい笑みを浮かべた。

 かなり不敬な言動をしてしまったが、怒ってはいないように見える。


「全く嘘じゃないけど? あれくらいでは言い足りないほどだよ。君は本当に花のように美しい女性だけど、上品でおとなしい病弱令嬢の仮面をつけていることをすぐに忘れて、お菓子を美味しそうに頬張り、さっきみたいに言葉を間違ったりするんだ。その二面性が可愛らしくて、とても魅力的だ」

「……に?」


 今度は、二面性という物言いに一瞬どきりとする。

 しかし、彼は詐病している自分をからかっているだけだろう。

 その証拠に、彼は身を乗り出すと内緒話をするように声を潜めた。


「……ってことは、私だけの秘密にしてあるから、心配しないで?」


 至近距離での最後のウインクに、かあっと頬が熱くなる。


「もぉー……」


 思わず右手を振り上げたところで、『やばい!』と気づく。

 この手を下ろしたらおしまいだ。


「あっ! えーと……。もぉ、このチョコレート美味しそうですわね。うふふふ」


 慌てて笑顔を作り、頭の上にまで上がっていた拳を緩めた。

 そして、そのまま指先を揃えて優雅に前に伸ばし、目の前に置かれた花の形のチョコレートを一粒つまみ上げた。


 そんな不自然すぎる言動に、彼がごまかされるはずもない。

 腹を抱えるようにして、必死に笑いを堪えている。


「ふ……くっ、も……無理。いいかげ……ん、諦めたらどう……だ?」

「まぁ、何のことかしら?」


 マルティーヌはすました顔でチョコレートを口にした。


 噛み締めると、中に細かく砕いたナッツが入っていて、まろやかな甘みと香ばしさが口いっぱいに広がる。

 あまりの美味しさに、思わずもう一つに手を伸ばす。

 ピンクの球状のチョコレートは思った通りいちごの味がし、その爽やかな甘酸っぱさにうっとりとなった。


「ああ……なんて、美味しいの」


 極上の糖分を補給して、少し落ち着いてきた。


 一方のヴィルジールはちょっとした呼吸困難に陥っていて、まだまともに話ができる状態ではない。


 きっと彼は、わたしが何をしでかしても面白がるだけなんだ。

 普段、完璧な令嬢に取り囲まれている彼にとって、わたしは令嬢になりきれない面白枠。

 だったらいっそのこと、開き直っちゃえ。

 上品ぶるのはもうやめた!


 マルティーヌはそう決心して、最後に残った木の葉型のチョコレートをつまんだ。

 チョコレートとミルクの優しい風味を口の中でゆっくりと溶かしていると、ようやく落ち着いた彼が紅茶のカップに手を伸ばした。


 お茶を一口飲んで、軽く咳払いしてから話を続ける。

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