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「マティに舞踏会の招待状が届いていただろう?」
「う……うん」
「私としては、夕食会の時にお断りの話をするつもりでいたのだがね……。夕食会をしないのであれば、せめて短時間でも面会したいと申し出たのだが、それも断られてしまったんだよ」
王族と関わりたくないマルティーヌにとって、この招待は大問題。
なんとしても断りたいのはもちろんだが、この招待に至った経緯や意図を、ヴィルジールに問いただしたいとも思っていた。
とはいえ、マルティーヌが直接断るのは、立場的にも、彼女の社交能力的にも不可能。
これは、王家と辺境伯家の問題であるため、ラヴェラルタ家当主であるグラシアンが表に出るべきだ。
「じゃあ……どうするの? お父さまが話をつけてくれるんでしょ?」
「それがな……その件は、明日のお茶会で直接マティに話したいとおっしゃったのだよ」
「お……茶会?」
不吉な言葉に、目の前が暗くなる。
屈辱的な苦い記憶しかないお茶会は、夕食会以上に嫌だ。
どんなに強い魔獣を前にしてもそんなことはないのに、不覚にも背中に冷たい汗が伝った。
「そう、お茶会だ」
「で、でも今回は、お父さまも同席されるのよね? ね? 大事な話だもの。そうよね?」
マルティーヌが必死に父親に詰め寄ると、彼は力なく首を横に振った。
「すまない。前回と同じ条件でと強く念を押されたから、お前と殿下の二人だけなのだよ。侍女はコラリー。ジョエル様が護衛としてつかれる。今回も、私たち家族は誰も同席できないのだ」
「いやあぁぁぁ〜」
マルティーヌはとうとう絨毯の上にへたり込み、頭を抱えた。
優雅にまとめられた髪が崩れ、花飾りが落ち、カツラもちょっと斜めにずれたが、この後の夕食会がないのなら、もうどうだっていい。
「そんなの無理よ! マルクならいざしらず、令嬢のマルティーヌじゃ、社交お化けのあいつに勝てる気が全くしないもん!」
「殿下は、悪いようにはしないとおっしゃっていたが……」
「とっくに悪くなっているじゃない! 王族が言うそんな台詞、全然、全く、これっぽっちも信じられないっっっ!」
あの男の行動や言葉にどんな裏があるか分からないし、分かったところで彼と駆け引きできるほどの、令嬢としての経験値がない。
このままでは彼に丸め込まれ、舞踏会への出席が正式に決定してしまうだろう。
そして、舞踏会で赤っ恥をかくだけならまだ良いが、王家に絡め取られるようなことになってしまっては、ベレニスの二の舞になる。
大きく広がったドレスの裾の上に突っ伏して肩を震わせる愛娘の姿に、両親は辛そうに眉を寄せて顔を見合わせた。
そんな中、オリヴィエがかさかさと音を立てて、ポケットから紙を取り出した。
「殿下から、一字一句違えずに伝えてほしいと頼まれたんだが……」と前置きして、中身を読み上げる。
「王都でいちばん人気がある職人に、君のための特別なチョコレートを作らせました。お茶会にお持ちしますので、ぜひ一緒に味わいましょう……だとさ」




