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(7)

「今、ここで揉めていても仕方がありません。一度隊列を解散して、後ほど打ち合わせさせていただきましょう」


 団長から解散が告げられ、目の前の集団が、それぞれの訓練に戻っていく。

 マルクは若手の集団に、身体強化をせずに丸太を補充するように命じた。

 ヴィルジールが連れて来た鷹翼騎士団は、隊列を崩さずにその場に待機し、ジョエルだけが呼び寄せられた。


 ヴィルジールが立場の差を思い知らせようとしているのか、腕を組んだまま横柄に言う。


「さて、その勇ましい副団長殿を紹介してもらえないか」

「彼は、我が騎士団の騎士側の副団長です」


 団長に紹介されたマルクは、不機嫌に右手を出した。


「マルク・ペサールです」

「ペサール?」


 女子供のように小さい手を握ったヴィルジールは、怪訝そうに聞き返す。

 そして、マルクの顔をまじまじと見た後に、セレスタンに視線を向けた。


 マルクとセレスタンは兄弟かと思うほど、顔立ちが似ているから、別の性を名乗ったことを不思議に思ったのだろう。

 実際には兄と妹なのだから、似ていて当たり前なのだが。


 こういう反応は珍しくないから、説明には慣れている。


「似てるって言いたいんだろ? 従兄弟なんだよ。俺の父親と彼らの母親が姉弟だから」

「従兄弟……か。なるほど」


 先ほどの対立構造の流れもあって、王子相手とはいえ敬語が使いづらい。

 つい、騎士団の中での普段通りの言葉遣いで話してしまったが、ヴィルジールは気にしないようだ。

 彼の隣に控えるジョエルの方が、マルクの対応に不満気に見えるが、クレマンから「マルクらしくふてぶてしく」と助言された通り、このままいくことにする。

 その方がボロが出ない。


「ところで君は、魔力なしなのか?」

「は?」

「丸太の山での君の戦闘は素晴らしかったが、あんな動きは身体強化なしでは不可能だ。だが、君からは全く魔力が感じられない。これはどうしたことだ」


 初対面でこんなことを言うなど失礼すぎるが、実はこういうやり取りも珍しくなかった。

 魔力で身体強化を施すことの多い騎士は、身体から自然に流出する魔力で相手の実力を測る。

 「魔力なし」の騎士は最弱だし、魔獣を相手にするなどあり得ないのだ。


 マルクはこれまでも、隣国のハイドリヒ騎士団との合同演習などで、同じ言葉で侮辱されてきた。

 いつもなら、そんな相手を叩きのめして黙らせる。

 しかし、さすがに王子相手ではそうはいかない。

 今後二週間、自分たちと行動を共にするのなら、簡単な説明をした方が良さそうだと判断する。


「魔力はある。魔力量だけで言えばセレスタン以上だ」


 自分の魔力量を端的に説明するには、王国屈指の魔力量を誇るセレスタンと比較するしかない。

 先ほどの訓練を見ていたらしいヴィルジールには、その説明に疑問はないようだ。


「どうりでな。しかし、なぜ君から魔力が感知できないんだ? 自然と漏れ出す魔力は制御できないはずだ」

「ああ。ずっとそう考えられていたけど、実際は違うんだ。厳密には制御とは言わないかもしれないけど、体内の魔力を意識することによって、外に出る魔力を抑えることができる」

「まさか、そんなことが……」

「実際に見てもらった方が早いな。でも、リーヴィは不器用だし、セレスは全く抑える気がないから……」


 誰か適当な人材がいないかと周囲を見回すと、数人の仲間と一緒に、補充の丸太を引きずって歩くロランが目に入った。

 彼の名を呼び手招きする。


「何か?」

「殿下の前に、普通に立ってくれ」

「は、はい」


 突然、王子の前に呼び出され、ロランは緊張気味だ。


 彼には人並み以上の魔力がある。

 何もしなければ、彼の魔力は感じ取れるはずだ。


「殿下、彼から魔力は感じられますか?」

「ああ、なかなか将来有望な若者のようだ」

「じゃあロラン、魔力の気配を消してみろ」


 マルクの指示にロランは「はい」と答えて軽く目を伏せた。

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