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「本日より二週間、ヴィルジール殿下の鷹翼騎士団との合同訓練を行うこととなった」
団長からのいきなりの発表に、団員たちがざわつく。
「えっ? 合同……?」
マルクも思わず、隣のセレスタンの顔を確認するように見上げた。
彼はちらりとマルクに視線を落とすと、軽く顔をしかめて見せた。
それだけで、事情は想像がついた。
ラヴェラルタ騎士団の隊列から少し離れた場所に、ヴィルジールの側近であるジョエルを先頭に、濃紺の軍服姿の男たちが二十名ほどが整列していた。
全員が礼服かのように軍服をぴしりと着こなし、軍靴には泥一つついていない。
正気かよ? とヴィルジールに対しても、オリヴィエに対しても思う。
『死の森』への大規模遠征まで、あと一ヶ月もない。
綿密な討伐遠征の計画を練り、武器や物資、馬を揃え、団員たちの実力の底上げを図らなければならない大切な時期なのだ。
魔獣討伐の経験のない、ぴかぴかの王家直属の騎士団など邪魔でしかない。
団長や、辺境伯はこの突然の話を断りたかったはずだ。
しかし、突然配下の騎士を引き連れて押しかけてきた第四王子を、どうすることもできなかったのだろう。
だから、権力者は嫌いなんだよっ!
マルクは、当然のように無理を押し通す王族への嫌悪感に、奥歯をぎりりと噛んだ。
団長のオリヴィエは、今後の訓練日程などの説明を続けている。
「鷹翼騎士団には第一、第二部隊とともに活動をしていただく。アロイス、クレマンの両部隊長には……」
「いや、待ってくれ」
ヴィルジールが小さく手を上げて団長の言葉を制した。
「我々は、あそこで訓練していた者たちと、訓練を共にすることを希望する」
そう言いながら、彼が指差したのは、さっきまで血みどろの訓練が繰り広げられていた丸太の山。
「はあっ? 何を言い出すんだ! そんなの無理に決まってるだろ!」
マルクは思わず大声を上げた。
ヴィルジールにくってかかりそうになるところを、セレスタンが「待て待て」と右手を伸ばして止める。
「殿下、お待ちください。あの訓練は、殿下方が取り組むにはあまりにも過酷で、特殊すぎますので」
マルクの言いたいことを、団長がかなり言葉を柔らかくして説明する。
「あれは、大型魔獣の討伐経験がない者のための訓練だと聞いたが? 我々には、魔獣討伐の経験がないのだから、ちょうど良いだろう」
彼の口ぶりでは訓練の様子を見ていたようだが、その上で「ちょうど良い」と言い放つとは、舐めているとしか言いようがない。
それとも、自分たちの実力が分かっていない馬鹿なの?
「ちょうど良いわけあるか! あれは普通に剣をふるったって、攻略できないんだ。人間相手の軟弱な剣しか知らない奴には無理なんだよ!」
セレスタンの腕を押しのけるようにぐいと前に出て、二つ隣に立つヴィルジールを睨み上げる。
すると彼はにやりと笑った。
「だったら、まず、魔獣相手の剣を教えていただこうか。もう一人の副団長殿?」
「俺? ……いや、それは……」
言葉尻を取られたように第四王子に指名された形になり、思わず口ごもる。
こんなやりとりは、ドレス姿でさんざん煮え湯を飲まされた時と、そっくりではないか。
このままでは彼にいいようにされてしまう。
下手をすると秘密がバレてしまうかもしれない。
「彼は、若手の育成を一手に担っています。今は、大規模討伐に向けて強化訓練中ですし、他の仕事もありますので、やはり別の者を……アロイスはベテランですし、先日も行動を共にさせていただいたので」
オリヴィエも同じ危機感を持ったのか、言葉を挟む。
しかし王子は、団長の方も見もしない。
高いところから見下ろすような視線を、マルクから外さない。
「いや、第一部隊長殿もお忙しいだろう。我々は若手の訓練に混ぜてもらえれば十分だ」
「だから、混ざることすら無理なんだよ! それに第一部隊長が忙しいって言うんなら、俺は副団長なんだ。とーっても、忙しいんだよ!」
騎士団きっての実力者と第四王子の、喧嘩腰のやりとりを、約五百名が直立姿勢を保ったまま、はらはらしながら見守っている。
このままでは埒があかないと、オリヴィエがため息をついた。




