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(4)

 副団長の後ろ姿を見つめる若い団員たちは、彼が丸太魔獣の討伐に加わるものと期待した。

 若く小柄で華奢な彼だが、つきぬけた戦闘能力の高さは、副団長の責務を負うにふさわしい。

 誰もがマルクの戦いぶりを見ようと前のめりになりかけたが、続く言葉に凍りつく。


「だが、本物の魔獣は容赦なく攻撃してくる」


 マルクはにやりと笑うと土を蹴って、丸太の山に向かって走り出した。


「やべっ! 魔王が来るぞ!」


 いちばん手前の山の低い位置にいたクレマンが、不穏な動きを察知して身構えた。

 マルクは攻撃を仕掛けると見せかけて、彼の足元の丸太を叩き斬った。


 クレマンはさすがに部隊長だけあって、そんな奇襲にも素早く対応する。

 がっしりした体つきに似合わない身軽さで次々と別の丸太に飛び移り、マルクに応戦する。

 しかしマルクは彼の攻撃を軽くかわして、丸太の山の頂上付近にいるアロイスに一気に迫った。


「くっ!」


 高い金属音が響く。

 ひょろりとした体格のアロイスは最大限の身体強化を施し、マルクの剣を真正面で受けた。

 多少の手加減があるとはいえ、マルクの強烈な攻撃を受けられるのはアロイスだけだ。


「やるねぇ、アロイス」

「くそ……っ。余裕だな」


 アロイスのすぐ後ろには、新人のパトリスがいた。

 彼は何が起きているのか理解が追いつかず、ただ呆然としている。


「クレマン以外は全員引けぇーっ!」


 アロイスが渾身の魔力を込めて剣を振るいながら叫ぶ。


「さすが、第一部隊長。いい判断だ」


 彼の剣を受け止めたマルクは、全力のアロイスを押し戻し、のけぞらせながらニヤリと笑った。


 本気を出せば、マルク一人でこの場を壊滅させることができる。

 騎士団トップクラスの部隊長二人がかりでも、マルクを倒すことは不可能なのだ。


 もちろん訓練だからそこまではしないが、実際に大型魔獣を相手にするときは、こんな絶体絶命の事態に陥ることはあり得る。

 その時、指揮官はどう指示すべきか。

 部下はどう動くべきか。

 とっさの判断が求められる。


「ひ、ひぃぃぃ!」


 至近距離での、副団長と部隊長の戦いのすさまじさにあてられたパトリスは、丸太の山から転げ落ちるようにして逃げた。

 しかし、少し離れた場所にいたロランは興奮気味だ。


「嫌です! 俺は残ります!」

「これは命令だ! 早く逃げろ! 死にたいか!」


 クレマンが魔獣討伐本番さながらのセリフを叫ぶ。

 そして、仕返しとばかりにマルクの足元の丸太を叩き斬った。


 足元が崩されたマルクは、別の丸太に飛び移りぎわに、斬り落とされた赤ん坊ほどの大きさのある丸太をロランに向かって蹴り飛ばした。


「うわぁぁぁっ!」


 飛び火のような予想外な攻撃にあったロランは、丸太を肩に受けて地面に落下した。


「ロラン! 傲慢は命取りだ。下がっていろ!」


 彼を力ずくで戦闘から遠ざけたマルクに、部隊長二人が上下から斬りかかった。

 不安定な足場にも関わらず、その足場までも利用しながらの三人の壮絶な戦闘が繰り広げられていく。

 それは、この騎士団最高峰の真剣勝負だった。


 新人たちは目も口も大きく開いたまま、呆然と丸太の山を見つめていた。

 中堅以上の団員たちも続々と集まり「魔王を倒せ!」「クレマン、右を崩せ!」などと、部隊長に声援を送っていた。


 そこへ。


「訓練やめぇーい!」


 騎士団長オリヴィエの大声が響き渡った。

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