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(2)

「マルク。久々だからって、張り切りすぎだ。まだセレスが来ていないのに、どうするんだ、これ」


 訓練の様子を見守っていたオリヴィエが呆れたように言う。


 鍛錬場のそこかしこに団員たちが折り重なって倒れており、ぴくりとも動かない。

 この後も訓練を続けるには、魔術師による回復術が必要だ。

 セレスタンなら、これだけの人数でも一瞬で回復させることができるが、彼はまだ鍛錬場に出てきていなかった。


「セレスじゃなくても、他にも魔術師はいるだろ?」

「お前に話す機会がなかったんだが、彼らはここしばらく、国境付近の結界の調査に行っているんだ。こっちには、見習いが数人しか残っていない」

「国境? ……あぁ」


 その言葉で、状況をなんとなく理解した。


 第四王子らが襲われた街道には、国教であるチェスラフ聖教会の魔導師によって強力な対魔獣の結界が張られている。

 巨躯魔狼ほどの強力な魔獣なら、人が張った結界などものともしないだろうが、現場には赤魔狼もたくさんいた。

 凶暴ではあるが魔力が強くない赤魔狼は、あの結界を抜けられないはずなのだ。


「結界のどこかに脆い場所があるのなら、教会に報告して張り直してもらわないとならないからな。ザウレン皇国側にも調査を依頼しているところだ」


 オリヴィエが難しい顔をする。


「でも、俺は巨躯魔狼がどこから来たのか知りたいけどな。あれが、今も生き残っていたこともびっくりだけど、もともと、死の森のかなり奥地じゃないといなかったはずなんだ。あいつが、森の浅い場所に棲みついていたら大変だ」

「それは、第一と第二部隊が調査に行っているよ。今回は、魔術師が同行できないから森の浅い部分だけだがな」

「そっか。だからアロイスたちがいなかったんだ」


 現在、鍛錬場に転がっている団員は若手ばかりで、実力者がほとんどいなかった。


「リーヴィ、ちょっと物足りなかったからもう一試合……」


 そう言いかけた時、ようやくセレスタンが姿を見せた。

 鍛錬場の惨状を目にし、顔をしかめる。


「うわっ。相変わらず凄まじいな、マルク」

「遅いよ、セレス! 早く彼らを回復させてくれ。鍛練を続けたいんだ」


 もっと体を動かしたくてうずうずしながら訴えると、彼は手にした数枚の紙をひらひらと振って見せた。


「少し待ってくれ。みんな寝てるから、話をするにはちょうどいいや。実はついさっき、ハイドリヒ騎士団からの報告書が届いたんだよ」


 ハイドリヒ騎士団は、ラヴェラルタ辺境伯領とは『死の森』を挟んだ反対側にある、ザウレン皇国の辺境伯が抱える騎士団だ。

 ラヴェラルタ家と同じように対魔獣に特化しており、隣国ではあるが昔から協力関係にあった。


「それで、なんと言ってきた?」


 オリヴィエが先を促す。


「まず、ザウレン皇国側の結界には異常はないそうだ。しかも、事件があったあの日とその十日前に、ハイドリヒ騎士団が国境警備の強化訓練を行なっていて、その時にも問題はなかったと」

「あの日と十日前って……?」


 マルクがつぶやくと、セレスタンが小さく頷いた。

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