(3)
「それは……」
一呼吸置いて、思い切ったように口を開く。
「わたしがベレニスの生まれ変わりだから」
思いがけない言葉に、家族全員が驚きに目を見開いた。
静まり返った中、最も早く冷静になったのはオリヴィエだった。
自分が見た光景を思い出しながら「なるほど」と納得したように頷く。
倒した魔獣が折り重なる天辺に堂々と立つ妹の姿に、あのとき確かに、古の女勇者を連想したのだから——。
「生まれ変わりってどういうことなの? 話してちょうだい」
母親が背後に立つ娘を見上げた。
その眼差しは真剣そのものだ。
「こんな、突拍子も無い話、信じてくれるの?」
「あなたが言うことですもの、信じて当たり前だわ。さ、座って」
母親がと娘の手を引き、隣の空いている席に座らせた。
セレスタンが、さっきまでマルティーヌが座っていた席に置かれていたティーカップを、目の前に滑らせてくれた。
「ほら、飲んで。無理しないで、ゆっくりでいいからね」
マルティーヌは「ありがとう」と、ぬるくなったお茶を一口飲んだ。
そして、カップをテーブルに戻すと、緊張した面持ちの家族の顔をぐるりと見まわした。
「わたしは、四百年前にベレニスとして生きた。そして、ベレニスの持っていた魔力も剣の腕も記憶もそのままに、この家の娘として生まれ変わったの」
「記憶……まさか、魔王を倒した記憶も?」
オリヴィエが斜め向かいの席から身を乗り出した。
魔王を討伐したベレニスの伝説は、この国だけでなく周辺諸国にも広く伝わっている。
特に、魔獣を討伐する任を負うラヴェラルタ家や騎士団には、彼女の崇拝者が多く、オリヴィエももれなくそうであった。
彼女の全てを知る生き証人が目の前にいれば、興奮するのは当然だし、いちばん気になるのは魔王討伐についてだろう。
「うん。そしてその後、ベレニスがどうやって死んだかまで全て」
「死……?」
妹の重い言葉に、彼の興奮はすぐさま消えた。
輝かしい功績を残したにも関わらず、ベレニスの晩年については何一つ逸話が残されていない。
新たな冒険に向かったまま消息を絶ったとも、他国の王子と幸せな結婚をしたとも、森の奥で静かに暮らしたとも言われているが、すべて後年の創作だ。
「魔王討伐の後、ベレニスは……わたしは、罪のない大勢の人を殺めた。その歴史を繰り返したくなかったの」
マルティーヌは唇を噛む。
「まさか……勇者がそんな」
勇者である彼女のイメージとは正反対の重々しい告白に、家族は息を飲んだ。




