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(2)

 屋敷がようやく落ち着きを取り戻した後、普段より少し早い朝食を摂ることとなった。

 マルティーヌは五日間も眠ったままだったため、彼女の前にだけ消化の良い食事が並べられた。

 それ以外は普段と変わらない朝の風景だ。


 食事中は、申し合わせたように誰一人灰翼蜥蜴の件には触れなかったが、食後のお茶が配られた後、父親のグラシアンは全ての使用人を下がらせた。


 彼はお茶を一口飲むと、意を決したように口を開いた。


「マティ、君はどうして、魔獣を倒せるほどの魔力を持っていることを、これまで隠していたんだい? 君には魔力はないと思っていたんだがね。今もほら、君から魔力は一切感じられない。これはどういうことなんだ」


 家長の言葉に、兄二人は頷いて同意した。

 魔力を持たない母親には無理だが、魔力を持つ者は他者の魔力の有無を感じ取れる。

 今この瞬間も、父と兄は、マルティーヌから僅かでも魔力を感じ取ろうと、自らの魔力を研ぎ澄ませていた。

 しかし、いちばん魔力の高いセレスタンでも無理だった。


「魔力はあるわ。きっと、お父さまたちが思っている以上に膨大な魔力があるの。でも、わたしの魔力は、全て自分の体の内側にとどまっていて、外に出ることがない。だから、回復術や攻撃術は無理なんだけど、強化術だけは使えるのよ」

「強化術か……やはりな」


 マルティーヌの戦闘を目の当たりにしたオリヴィエは納得する。

 彼女は、そうでなければ説明がつかない動きをしていたのだ。

 しかし、どれだけの魔力量があれば、あんな超人的な動きを長時間続けることができるのだろうかと考えると、体が震えた。


「わたしの強化術は自分の身体だけじゃなくて、素手で触れていれば、他の生き物……馬でもなんでも強化できるわ」

「ほう……馬まで?」

「うん。例えばお母さまでも」


 そう言うとマルティーヌは席を立ち、正面に座っていた母親の背後に回り込んだ。

 そして背後から手を伸ばし、母親の手の甲に触れた。


「お母さま、そのティースプーンを曲げてみて」

「えぇと、こうかしら?」


 魔力を全く持たない母親は、半信半疑の面持ちで目の前のスプーンを手に取ると、その両端を指先でつまんだ。

 すると。


「きゃあ、これ何! 楽しい!」


 ほとんど力を入れたつもりはないのに、あっさりと曲がったスプーンに母親は歓喜する。

 さらには、隣の夫のスプーンにも手を伸ばし、二本まとめてくねくねと丸めてしまった。

 その後、目を輝かせてティーカップに手を伸ばそうとしたので、マルティーヌが「それは危ないからダメよ」と手を離した。


「だけど、どれだけ魔力があっても、使いこなせるようになるには訓練が必要だろう? こっそり練習していたのかい?」


 この国トップクラスの魔術師であるセレスタンは、子どもの頃から厳しい鍛錬を積んで今があるのだ。

 これまで普通の令嬢として暮らしてきた妹が、簡単に魔術を操れるとは思えない。


「訓練はしていない……けど、魔術の使い方は知ってたの」

「いくら知ってたって、知ってるのとやるのとじゃ違う。普通、魔術書を読んだくらいでは、魔術は使えないだろう? そんなところまで規格外なのかい?」


 セレスタンは頭をかかえた。

 そして、ふと気づく。


「だけど、他人を強化するなんて術、初めて見た。どの魔術書に載っていたんだい?」


 少なくとも、ラヴェラルタ家の蔵書にはないと断言できる。

 国内外の魔術書を読み漁り、片っ端から試した彼の記憶の中にもそんな術はないのだ。


「そういえばお前、灰翼蜥蜴が崖を崩すことを知っていたって言ってたよな。それはどこから……?」


 「知っている」という物言いにひっかかったオリヴィエも問う。


 この国最強とされるラヴェラルタ騎士団が灰翼蜥蜴の集団に苦戦したのは、その習性を知らなかったからだ。

 灰翼蜥蜴は単体で討伐されることが多く、集団を討伐した記録や伝承は残っていない。

 なのに、マルティーヌはそれを知っていたと言っていた。


「行ったことがないはずの灰翼蜥蜴の巣がある崖へも、お前は迷うことなくたどり着いた。それも、知っていた?」


 マルティーヌはこくりと頷いた。


「どうして?」


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