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「ラヴェラルタ辺境伯令嬢は病弱」ってことにしておいてください  作者: 平田加津実
第1章 ラヴェラルタ家の令嬢は病弱である
3/210

(3)

 マルティーヌがバスチアンの店の裏に駆けつけると、すでに鞍の着けられた二頭の馬が引き出されていた。

 彼が体躯の良い黒馬の手綱を渡す。


「お嬢。うちで一番体力と度胸のある馬だ」

「うん、いい馬だね。よく走りそう」


 マルティーヌは満足げに、馬の鼻面を撫でた。


「剣は俺のを使ってくれ」


 続いて手渡された長剣は、長身でがっしりとした体格の男の私物らしく、幅が広く長い。

 重量もかなりのものだ。

 華奢な少女の手にはあまる得物だが、彼女は平然と受け取り、手慣れた様子で腰に下げた。

 そして、ひらりと馬に飛び乗った。


「ちょっと様子を見てくる。先に行くからバスチアンも追って来て!」


 馬上からそう言うなり、マルティーヌは「はっ!」と馬の腹を蹴った。

 馬はあっという間に加速し、裏道から奥へと消えていった。


「お嬢は、相変わらずだなぁ。さて、俺も準備しないとな」


 バスチアンは一度店舗に戻ると、鉄製の胸当てと魔獣の皮で作られた分厚い手袋を身につけた。

 魔法薬や傷薬、包帯などを背嚢にめいいっぱい詰めて担ぐ。

 そして「どうせ、こいつはいらねぇんだろうけど」と呟きながら、予備の長剣を下げた。




 さっきの暴れ馬たちには、さほど疲れた様子は見られなかった。

 何かが起きたであろう現場は、そう遠くないはずだ。


「お前には頑張ってもらうよ。俺の力を貸すからさ」


 マルティーヌは右手だけで器用に手綱を操りながら、左の掌を馬の背にあてがった。

 馬はみるみる速度を上げて行く。

 あっという間に町を抜け、収穫を終えたばかりの小麦畑が左右に広がる街道へと出た。

 その先には、街道を飲み込むように雑木林が広がっており、林を抜けたところが、隣国との国境だ。


「この道は安全なはずなんだけどな」


 目の前の林は『死の森』の裾野にあたるが、魔獣が出現するほど深くはない。

 さらに、隣国との交易や交流を守るため、国の魔導師たちによって厳重な魔獣除けの結界が張られている。

 だから、魔獣の仕業とは考えづらいのだが。


「でも、魔獣としか思えない」


 そう訝りながらも、馬を限界まで急がせていると、林に入ってしばらくしたところで馬の速度ががくりと落ちた。

 動物の勘なのか、掌を置いた馬の背から明らかな緊張感が伝わってくる。


「大丈夫だ。俺がついてる。もうちょっと頑張ってくれ!」


 馬を奮い立たせるために首筋を叩いたり、手綱を握る手に力を込めたものの、やがて馬は完全に止まってしまった。

 もう、意地でも動きそうにない。


 道は少し先で大きく右に曲がっており、その先に何があるかは見えない。

 けれど、ひどく嫌な気配を感じた。


 ざわざわと木の葉を揺らす風が、微かな獣と血の臭いを運んでくると、馬が怯えた声を上げた。


 やはり魔獣か——。


「分かった。あんたはここでいい子にしてな」


 マルティーヌは馬から素早く降りて脇の小木に手綱を繋ぐと、駆け出した。


 カーブの手前まで来ると、獰猛な魔獣の唸り声と、獣に必死に応戦する数人の男たちの声が聞こえてきた。


「ずいぶん多そうだ。魔跳犬キャニスサリエ……いや、もっと大きい。魔狼デモルプス……か」


 急いで道を曲がると、二人の青年の背中が見えた。


「な……っ!」

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