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「ラヴェラルタ辺境伯令嬢は病弱」ってことにしておいてください  作者: 平田加津実
第7章 『死の森』の奥地に残されたもの
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(4)

「では、マルクとセレスはパメラと共に待機。念のため、すぐに動けるようにはしておいてくれよ」

「おっけー!」

「了解!」

「アロイスは今回は弓を持ってジュストらと共に黒鎧猿を散らしてくれ。ヴィルは他の剣士と共に前衛だ。ジョーとバスチアンは弓師と魔術師の警護。討ち漏らしを狩ってくれ。後の者はいつもの通りの配置につけ!」


 オリヴィエが団長らしくきびきびと場を仕切っていく。

 そして、見学者以外が持ち場についたのを確認すると、団長ではなくパメラが声を張り上げた。


「それじゃ、結界を外すよ。みんなの勇姿を存分に見せとくれ! 三、二、一……ぶちかませぇーっ!」


 魔獣と人間との間の見えない壁が取り払われると、ひしめき合っていた赤魔狼がバランスを崩して内側になだれ込んできた。

 押しつぶされた仲間を足場にして高く跳ねた魔獣が、上空から牙を剥いて襲いかかってくる。


「はっ!」


 ヴィルジールが大きくなぎ払った一閃は、二頭の魔狼を立て続けにに捉えた。

 敵の腹と首筋を深々と切り裂き、二頭は短い悲鳴を上げただけであっさりと地面に落ちた。


 えっ?


 あまりにも手応えがなかった。

 奴らは剣を弾き返すほど硬い体毛で覆われていたはず。

 以前あれほど苦戦した獣が、クッションを切ったように柔らかく感じた。


 今起きたことが信じられず、思わず、動かなくなった骸を二度見する。

 その瞬間、さらに別の二頭が左右から同時に飛びかかってきた。


「ヴィルっ! 危ない!」


 しまった——。


 とっさに、右側から襲ってきた牙に剣を向けたものの、もう一方は防ぎようがなかった。

 左肘を上げ、首をすくめて最大限の身体強化で身を守る。


 これならおそらく、死なない。


 最悪一歩手前の覚悟をした時、目の端に何かが映った。


「馬鹿っ! 何やってんだよ!」


 罵声と共に目の前に着地したのはマルクだった。

 ほぼ同時に、胴体と切り離された獣の頭が二つ、足元に転がった。


「マルク……すまない」

「すまないじゃねぇよ! ふざけんな!」


 マルクは怒りに任せて周囲の魔狼をかたっぱしから斬り伏せた後、ヴィルジールにまで斬りかかってきた。

 そのすさまじく鋭く重い攻撃を、ヴィルジールはかろうじて受け止めた。

 マルクは剣を合わせたまま、間合いをぐいと詰めてくる。


「魔獣の群れ相手では一瞬の油断が命取りなんだよ! 初心者のくせに気を抜くな!」

「……くっ」

「おまえ、やる気があるのか! どうなんだ!」


 相手がいくら小柄で華奢な体格であっても、本当は女性であっても、身体強化に割り振れる魔力量は規格外だ。

 力任せの押し合いになれば、屈強な男であっても簡単に押し負ける。

 マルクの問いかけに答える余裕はなかった。


「答えろっ!」

「うわあっ!」


 ヴィルジールはあっという間に地面に投げ出された。

 無様に地面に尻餅をつくと、その場から一メートルほど滑って止まった。


 顔を上げると、目の前に鋭い切っ先が向けられている。

 これが彼との勝負であれば、完全なる敗北だ。


「気概を見せろ! それができないんなら、すぐさま王都に帰れ!」


 そう言い捨てると、マルクはさっきまで座っていた場所に戻っていく。

 「ああ、うるさいっ!」と、飛びかかってくる魔狼を易々と斬り捨てながら。


 彼が本気を出せば、人間がその攻撃を止めることはできない。

 さっき、彼の剣を受け止められたのは、受け止められるぎりぎりに力を加減してくれたからだ。

 地面に投げ出された時も、周囲の獣をすべて倒して安全を確保した後だった。


 魔獣の大群に囲まれている時でさえ、彼にはこれだけの余裕がある。


 それにくらべて、俺はなんて格好悪いんだ。

 彼らが雑魚と言い放つ赤魔狼に、簡単に隙を突かれるなんて。


「くそっ! 見てろよ、マルク!」


 ヴィルジールは愛剣をしっかりと握り直して立ち上がると、足元を狙って飛びかかってきた魔狼を、すくい上げるようにして斬った。

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