祝☆聖女召喚!そして国が滅びました☆
神が人を作り、悪魔が魔物を作ったと言われている。
魔物は人を食い、人は逃げ惑う。
力の弱い『人』はそれでも抵抗する手段を考え、知恵を絞ってその数を増やしていった。
家を作り、畑を作り、街を作り、いつしか国ができた。
それでも人は魔物に食われた。
魔物が居るから人が死ぬ。
どうにか魔物をこの世から消し去る事はできないか?
長い長い時間を掛けて、人々は考えた。
そしてある方法を思いつく。
『神の国から力のある者をこの世界に呼び寄せて、そしてその力で魔物を消し去ってもらえばいいのではないか?』
『神』が人を作り出したのなら、必ず『神』は存在する。ならば、その『神』が住む国が必ず存在するはずだ。そこから力のある『神』に来て頂いて、力を使って頂く。
素晴らしいアイデアだと思われた。
しかしそんな事ができるはずもない。
夢物語だと嘲笑され忘れ去られた。
はずだった……
しかし『人』は夢を見る。
魔物をどうにかしたくて『人』は無謀な挑戦を繰り返した。
必ずできると。
必ず実現してみせると。
『魔法』という力を授かった人々は、必ず『助けが呼べる』と信じていた。
◇ ◇ ◇
グロリエイサ暦3107年。
ドリアルダ国の王城でそれは執り行われた。
『聖女召喚の儀』
なぜ『聖“女”』なのか誰も疑問に思う事もなくなったその時代に、その技術は完成した。
そして全ての国民の『純粋な希望』だけを受けて、それは実行に移された。
美しく描かれた魔法陣。
国選りすぐりの魔法使いたち。
見守る国王夫妻とその息子たち。
全員が期待する。
『きっと美しく心優しい聖女様が現れて、我らを救って下さる』
……と。
そしてその聖女様は王子と結婚して末永くこの国を見守って下さる、と。
そんな期待を一心に受けて、聖女召喚の魔法陣が起動する。
世界の全てを照らすかのような眩い光が一面に広がり、そしてその光が煌めく光の粒となった時。
魔法陣の真ん中に立つ女性の姿があった。
「………………はあ?」
魔法陣の真ん中に現れた聖女様が初めての言葉を呟かれる。
その表情は、困惑と怪訝さで顰められていた。
「「「「「……………」」」」」
──……美しくない──
心無い者たちが一番最初に思った事だった。
“理想の聖女像”からかけ離れた姿の聖女になんとも言えない空気が場を支配する。
もったりとした黒い髪。絶妙に離れた小さな目。あまり高くない鼻。薄い唇。農民の様に焼けた肌。
着ている物もみすぼらしく。変わった形をしているが生地は薄く丈も短い。
女性なのに足や腕が露出しているのを見て、王妃やその他の女性たちが不快感に眉間にシワを寄せた。
そんな中で、第二王子が素早く動いた。
この国には二人の王子が居る。王太子の第一王子と、第二王子だ。
第一王子には婚約者がいるが、第二王子にはまだ居なかった。だから第二王子は聖女召喚を楽しみにしていた。
──聖女を自分の伴侶として、あわよくば自分が国王に……!──
顔には自信がたっぷりとあった。
どんな女性が来ても自分なら大丈夫だと思っていた。
だが現れた聖女の顔を見て、ショックを受けている自分にも気付いた。
これが聖女かと、溜め息が出そうになるのを必死に抑えて第二王子は誰よりも先に前に出た。
外見が悪くても聖女である事には変わりはない。
聖女を伴侶にしてしまえば後はどうにでもなる、と第二王子は不審そうにキョロキョロと周りを見渡す聖女様に近付いた。
「聖女様!
我らの召喚に応じて下さった事、この国の第二王子として感謝致します!」
顔に絶対の自信があるんだと言わんばかりの笑顔で近づいてきたキラキラした服を着た男に、召喚された少女は不信感だけを浮かべた目を向けた。
少女は今人生で一番考えていた。脳みそをフル回転させて現状を把握しようとした。
突然足元に現れた……どう考えても魔法陣に閉じ込められたと思ったら、場所が移動してファンタジックな格好をした外国人らしき人たちに囲まれていた。言葉は分かる。目の前のイケメンは第二王子と言った。ならばこいつらは王族。そして背後に見えるこの部屋の豪華さから言って多分お城か貴族の屋敷の中。足元に大きな魔法陣。そしてイケメンが確実に私に向かって言った『聖女様』という言葉……
……私とうとう狂ったかな……
少女は真顔で自分の頬を抓った。それを見て焦るのは第二王子や周りの人々。
口々に「聖女様っ!?」と騒ぐが黒髪の少女には構っている余裕はない。じわじわと湧き上がってくる不安と恐怖が少女の体を支配する。
彼女には知識があった。
散々ネタで出し尽くされた異世界召喚。暇つぶしに彼女もたくさん読んだ。物語として楽しむには最高だったが、しかしまさかそれが現実に自分の身に起きるなど誰が想像できるのか。
だが目の前にはどう見ても地球上では存在しない髪色をしている人間がたくさん居る。それも全員見目麗しくカラフルな目の色をしている。これが集団コスプレだったら逆に凄い。そしてそんな全力コスプレで自分の様な平凡を絵に描いたような一般人を騙しているとしたらそれこそ意味不明過ぎてヤバい。もしこれがテレビのドッキリ番組だとしたら、どこに何罪で訴えたらどれだけ慰謝料(?)を貰えるのか……だけどそんな事は気にする必要がないと彼女の本能が告げていた。
これは本当に起こった出来事なんだと。
「………ねぇ」
聖女として召喚された少女は静かに口を開いた。
その声は皆が思い描いていた聖女の声にしては重ったく、小鳥の様な可憐さ……などとは決して形容できる声ではなかった。
少しだけまた残念な気持ちになった事を悟られない様に少女の一番近くに居た第二王子が返事をする。
「なんでも聞いてください聖女様」
彼女には分かる。
“自分の様な見た目の女”にイケメンが愛想を振りまく時は、必ず裏がある事を……
「……………私は、帰れるの?」
その言葉に周りの人々が全員あからさまに動揺した。
それを見て少女は確信する。
──出た。この拉致国家が……っ!──
◇ ◇ ◇
「……聖女様はまだ篭っておられるのか?」
「……はい……お食事は取られているのですが、それ以外は誰も近づかせては下さらなくて……」
「部屋で何をされているのだ?」
「……何も……
ただベッドに座って目を閉じておられます」
「……はぁ〜……困ったお方だ。
こちらがどれだけの労力を使って呼び寄せたかも理解しては下さらないとは……」
「まだお若く、家族と引き離された事にショックを受けておられるのではないでしょうか……」
「若いと言っても16だと聞いている。この国では12で独り立ちする者も居るというのに……
『神の国』というのは随分子供を甘やかして育てるんだな」
「…………」
「聖女召喚が成功した事は他国にも大々的に宣言している。聖女様には一刻も早く活動を始めて頂き、その力を世界中に証明して頂かなければならない。
お前たちは聖女様と近い年齢の女子だからとわざわざ集められたのだ。早く聖女様の心に寄り添い、情を持って聖女様の背中を押すのだ。頼むぞ」
「はい。心得て居ります」
宰相はそう言って去っていった。
聖女付きとして王城に上がったばかりのメイドは緊張から汗をかいていた手のひらを周りにバレない様にスカートで拭うと張り詰めていた息をゆっくりと吐いた。
荷が重い……
それが彼女や、彼女と同じ様に聖女と同じ年齢だからと集められたメイドたちの気持ちだった。
聖女様は召喚された日からずっと部屋から出ようとはせずに、人ともほとんど話をしない。
ずっと何かを考えている様で、話しかける事すらも憚られる。
何よりその警戒心が解けない。
同い年のメイドですらそれなのだ。どうにか懇意になろうと頑張っている第二王子は部屋にすら入れて貰えない。聖女様が会いたくないと言えばそれが優先されるのだ。
腹を立てた第二王子は周りのメイドに当たり、それが怖くて一部のメイドは泣いていた。
それもこれも、召喚されて来たのに我が侭に自分の我を押し通す聖女の所為……
美しくも、可愛くもない、聖女様と呼ぶには相応しくない外見の『我が侭少女』に、同い年なのに既に働いていてそれでいて外見だって聖女には負けていないメイドたちは、直ぐに聖女を不満に思った。
◇ ◇ ◇
聖女として召喚された少女はずっとずっと考えていた。
聖女召喚。
異世界に呼ぶだけの片道切符。
なぜ呼ばれるのは『少女』なのか? 人助けをさせたいのならばボランティア活動に人生を捧げている男性でも良いではないのか?
答えは簡単。
『年端も行かない思春期の少女の方が情に訴えて取り込みやすいから』
見た目の良い王子をあてがえば、恋愛に夢見る世代の少女は疑う事なく王子に依存し従順になる。出世欲もないから自分が国のトップになろうとはしない。
男ならこうはいかない。出世欲に支配欲と、王女をあてがおうものなら我が物顔で自分が国王となる為に国を乗っ取りに動くだろう。召喚する者の性格を選べないからこそ、そんな危険な賭けはできない。
だから『召喚するのは少女』なのだ。
だが、この国の人間は一つ見落としている。
少女の全てが『心優しく従順で、恋に恋する乙女』ではないのだ。
聖女として召喚された少女はずっと脳をフル回転させていた。
この世界の事、自分の今の立場。
聖女としての自分の能力を。
──全ては愛するものを最後まで追いかける為に!!!!!──
彼女は漫画オタクであり大好きなアイドル♂グループがあった。
今イチオシの漫画は今が最高潮で本誌から目が離せない! アニメ化も決まっている!
それに推しグループは来月新曲を出す!! 更には推しメンがなんと来年準主役で映画デビューが決まっている!!!
そんな時っ!?
そんな時にっ!!!
なに異世界に拉致ってくれてんじゃゴラァっ!!!!!!!!
彼女の怒りは測り知れなかった……
その日は突然訪れた。
何の予兆も無い。
みんな普段通り生活していた。
空は晴れていた。
気持ちの良い日差しだった。
いつもと変わらぬ日々を過ごす者。予定を立てて動く者。祝いの日に浮かれる者。家族が亡くなり悲しむ者。不祥事に怒る者。ただ怠慢に過ごす者。愛する人と愛し合う者。
何も変わらない日常が過ぎ去るはずだった。
しかし一部の者は異変に気付いた。
聖女付きのメイドたちは違和感に首を傾げて聖女を見る。
聖女は今まで見せた事も無い笑みを口元に浮かべていた。
そして誰に言うともなしに呟いた。
「そうよね。やっぱりそうよね。
だと思ったのよね〜。
こういうのって、大抵エネルギー量だもんね」
聞こえてきた聖女の独り言にメイドたちが集まってくる。
しかし聖女はそんなメイドたちを気にする事なく嬉しそうに手に拳を作って嬉しさに体を震わせていた。
「せ、聖女様……?」
メイドの一人が声を掛ける。
その声に初めてメイドたちの存在に気づいたかの様に聖女は振り返ると、全員の顔を見渡して申し訳なさそうな表情をした。
「ゴメンネみんな。
私、帰るから。
恨むなら私を召喚した奴を恨んでね!」
聖女の言葉に「え?」とメイドたちが零したと同時に、聖女は目を瞑った。
その途端に世界に溢れかえる光、光、光。
真っ白な世界に溶け込んだ人々は何が起こったのかも分からずに、消えた。
その日、ドリアルダ国に居た全ての人が消息不明となり、国が滅んだ。
◇ ◇ ◇
ドリアルダ国から全ての人が居なくなったとの知らせを受けて隣国の調査団がドリアルダ国へと派遣された。
ドリアルダ国に足を踏み入れた調査団は驚愕する。
本当に人の気配も何も無く、そこには生活していた痕跡だけが色濃く残っているだけだった。
人が居たところに服や荷物が落ちていて、家の中には食事が食べかけのまま残っている。書きかけの書類の側には手があったであろうところにペンが落ちていて、書類を運んでいた途中だと思われる廊下には服と書類がただそこに落ちていた。料理途中だったのか、燃えたキッチンが何箇所か見つかった。石造りの家でなければ街は大惨事となっていただろう。家畜類も消え失せ、『命そのものが無くなった』のだと調査団員たちは恐怖を覚えた。
調査団は他国の調査団とも協力し合いながらドリアルダ国の王城へと辿り着く。
恐ろしい程に静まり返った城の中を人海戦術で調べていく。
聖女召喚に関係したと思われる物を全て一箇所に集めて情報を集めていく。調査団は情報を集め、それとは別に派遣された騎士たちがドリアルダ国の無人となった王城を守る事となった。
だが泥棒さえもドリアルダ国には近付かない。全ての国民が忽然と消え、その理由が分らない為に「呪いではないか?」「天変地異の前触れではないのか?」と噂され、人々の恐怖心を煽ったからだ。
調査団や派遣された騎士たちも、自分が次の瞬間消えてしまうかもしれないという恐怖と戦いながら任務に当たった。
◇ ◇ ◇
調査団が持ち帰った情報を元にドリアルダ国の隣国・フォーザ国の魔法師団長はドリアルダ国で何があったのかを推測し、国王に報告した。
『召喚された聖女が帰る為にドリアルダ国の国民の命を贄とした』
その報告に国王は青褪める。
「それでは悪魔ではないか……」
国王の言葉に魔法師団長は目を伏せた。
「それは立場の違いでございます。
陛下は虫を殺す事に罪悪感を持たれますか? 物語の脇役の兵士たちが死んだからといって本気で悲しんだ事がおありですか?
もし聖女が私達の事を『自分とは違う世界の存在』だと考えていたのであれば、目を見て、言葉を交わしていても、情が湧く事はないのではないでしょうか……
囮魔法というものがあります。
魔法で自分の分身を作り出すものですが……この分身が殺されても誰も何も思わないでしょう。
もし、聖女の世界にもこの様な技があり、聖女がそれに触れる機会があったのであれば……聖女が我らを『自分とは違う何か』と思っていてもおかしくないのではないかと愚考します。
“自分とは違う存在の命”を……“命ではないモノ”、“保護する必要の無いモノ”と考えてもおかしくないのかもしれません……」
「しかしそれでもだ……
それでも何万もの命を犠牲にするなど……」
国王の震える声に師団長は冷静に答える。
「聖女が強制的に召喚されて自分の命を弄ばれたと考えれば、そんな『自分の命を蔑ろにする者たちの命』など、情けを掛けるに値しないと考えてもおかしくはないのではないでしょうか」
「…………」
師団長の言葉に国王は言葉を無くした。聖女は特別な存在だが、それを聖女自身が最初から自覚しているかは分らない。
資料の中にあった簡素に描かれた聖女の姿絵を見つめる。黒髪の幼さの残る少女だった。『愛嬌のある目鼻立ち』と書かれた文字になんとも言えない気持ちになる。
そんな国王を気にする事なく師団長は続ける。
「……だから私は聖女召喚には反対なのです。
召喚が相手側の同意の上で行われるのならいざ知らず、全てこちらの望むままに強制的に行われる行為です。
私も子供が居る身ですので、もし自分の子供が異世界へと召喚される事があるとしたら……
聖女だろうと勇者であろうと、どんな理由で呼ばれたにせよ……私は私の子供を無理やり召喚した世界に行って全力を以て我が子を取り返すでしょうね……」
想像するだけで怒りの滲んた師団長の声に国王も反応する。
「……そうだな……我も、姫を奪われたとなれば、全力で取り返す為に動くであろう……」
まだ幼い我が子の愛しい笑顔を思い出して国王は眉間にシワを寄せた。師団長はそんな国王と目を合わせる。
「今回は聖女自身が行動を起こしたまでの事……
召喚には魔法陣を使いますが、この魔法陣は“地図”でもあるのです。“聖女”という目的地を特定して一本の道を繋げる。その為、使う魔力の量も計算できます。
しかし聖女は地図も無く家に帰ろうとした。
どれだけの距離とどれだけの時間とどれだけの体力を使うかも分らないままに家路を目指したのです。きっと無差別に伸ばした道を繋げる為に莫大な魔力が必要だったのでしょう……一国の国民全員の全魔力を必要とする程に……
それほどに聖女は生まれた世界に帰りたかったのでしょうが……当然でしょうな……家族や友人や、もしかしたら愛する者が居たかもしれないのですから。
……やはり罪は、神の国より少女を一方的に呼び寄せたドリアルダ国にあると思われます。
これは歴とした誘拐行為です」
きっぱりと告げられた言葉に国王は頷いた。
「分かった。ではその様に記録せよ。
ドリアルダ国の処理は他の隣国と協議して進める。使者の準備を。
そして、我が国では召喚の儀の全てを禁止とする。
禁を破ろうとする者には例外なく死を以て償わせる」
「御意に」
国王の言葉に師団長を含めその部屋に居た全ての者が頭を下げた。
◇ ◇ ◇
聖女召喚後、ドリアルダ国が消滅した。
その話は世界中に衝撃を与えた。魔物との戦いに疲れていたいくつかの国は“聖女”に期待していた為に、ドリアルダ国から聖女召喚が成功したという知らせを受けて自国でもと息巻いていたところだった。しかしドリアルダ国の惨状を知った今、どの国も聖女を召喚したいとは思えなくなっていた。
魔物は憎い。しかし魔物で滅んだ国は実のところ歴史上一つも無かった。
それなのに、助けになると期待した聖女を召喚した為に国が一つ消えた。それも国民全員の命と共に。
そもそも『聖女が魔物を消し去る』という考えは誰が言い出したのか?
それはこの世界に生きる者のただの願望ではないのか?
召喚した者が初めて訪れる異世界の人間を自分を犠牲にして助けてくれる確率は如何ほどか?
聖女ではなく勇者ではどうか?
色んな議論を呼び、そして最後には皆が亡国ドリアルダ国の事を思い出して恐れおののくのだった。
全国民の命を失うリスクを負ってまで聖女召喚をする程の価値は無いと全ての国が結論を出すのにそう大して時間は掛からなかった。
そして全ての国から召喚の為の魔法陣が消し去られた。
そしていつしかその世界では
聖女は恐怖の象徴として
子供たちを怖がらせた。
◇ ◇ ◇
異世界に聖女として呼ばれた少女は目を開けた。
コンビニに行った帰りに異世界に召喚された彼女は同じ場所に戻ってきた。
ぼうっとする頭でスマホを取り出して時間を確認する。
そういえば異世界で着替えていて荷物も持っていなかったのに今は召喚される前と同じ格好をしている。
あんなコスプレみたいな服で戻されなくてよかった……、と彼女は無意識に思った。
時間を確認すればコンビニを出る前に時計を見た時間から大して変わっていない。異世界で過ごした数日。やっぱり時間とか超越してるのかな? とまだハッキリと動かない頭で考える。そして……
「帰ろ……」
彼女は家に帰った。
そして次の日。
彼女は学校で親友の顔を見るとなんだか怒りがぶり返した気がして全部喋った。
「おはよう、ミキちゃん!
聞いてよ凄い夢見たの! それも白昼夢!!」
「はく?」
「起きてる時に見る夢!!
私なんと異世界に聖女として召喚されちゃった!!」
「ぶはっ!! あんたが聖女っ!!」
「ね! 私も笑っちゃうわ!
私がいくらネトゲでヒーラー専門で仲間から聖女様とか呼ばれた事があるからって、私が聖女はないわよね〜」
「夢だから、願望? シホってば実は逆ハーレム願望があったとか?」
「ある訳ないでしょ!
聖女=逆ハーレムはザマァ小説に毒され過ぎ!!」
「え〜そうかな〜〜」
「でねでね!
私、召喚されて西洋風の異世界で超美形ばかりの異世界人に囲まれたんだけど、そいつら、勝手に人の事呼んだくせに、私の顔見て「え?」みたいな顔するのよ!?」
「あ〜、召喚される聖女って決まって美少女だもんね〜。
アイドルから選んでんのかってくらいに」
「じゃあそもそも私を呼ぶなって感じでしょ?! 勝手に拉致っといて「え?」って顔すんの!! 凄いムカつく!!!」
「夢にどれだけキレてんのよ」
「でね! なんか第二王子とかいうキラキライケメンがニコニコしながら近付いて来て私に媚び売って来ようとすんのよ!!」
「私らみたいなのに近付いてくるイケメンは詐欺師しかいないからね」
「ね! 美形が微笑めば不細工はイチコロで落ちるなんて思うなよ、って感じ!!」
「それで? どうしたの?」
「なんか聖女さまにはって色々説明とかなんか色々聞かされたけど、そんなの私には関係ないじゃん?
帰れるかって聞いたらはぐらかすから、これ絶対に駄目なやつだって思ったから私絶対に帰ってやるんだって思ってさ!
異世界召喚される聖女って大抵その世界で一番力強いじゃん? だからその力を使えばどうにかなるんじゃないかと思ってめちゃくちゃ考えた!!!」
「シホらしいわ」
「ほら、漫画とかだと力を集めれば、とか魂を集めれば、とかやるじゃない? なら私もそれすればいいんじゃないかって思ってやったらできた」
「ん?」
「やったらできた。
さすが聖女の力。最強だったわ」
「何を集めたって?」
「……帰るのに必要な力」
「……それは……?」
「…………魂……」
「魂……」
「異世界移動できるだけの魂……」
「魔王じゃん!!!!
魂集めるとか魔王爆誕じゃん!!!!!(爆笑)」
「仕方ないじゃん!! 帰る為だったの!! そもそも誘拐する方が悪いんだからみんな同罪よ!!!
それに考えてもみてよ!?
あの世界がバーチャル空間じゃないって否定できる?
よくよく考えたらあんな美形ばっかりの世界、ネトゲの仮想空間だと思えばおかしくないのよね! 目の前に居た第二王子もメイドもあれが本体だって、どうやって証明するのよ? アバターかもしれないのに」
「あ〜、ネトゲとかまんま異世界小説の舞台みたいなもんだもんね〜」
「たがら私がやったのはアバターの破壊かもしれないけど、そんな大事じゃないのよ!!」
「アバターの破壊も相当やばくない?」
「あんな世界に私を閉じ込めた奴が悪い!!!
みんなのレベルとか力とかをエネルギーにして私は現世に帰ってきたのよ!!
決して大量殺人の魔王とかじゃないわ!!!」
「まぁ、夢の中で何人殺しても数には入らないしね〜。
精神は疑うけど」
「夢よ夢!! だからミキちゃん引かないでっ!!」
「はいはい。私はシホがグロエロBLの超ド級の変態性癖垂れ流しの夢見ても友達辞めたりしないから安心しな」
「そんな夢見ないよ!??!!」
「はいは〜い」
「ちょ、ミキちゃん!!」
「あ、アンちゃんおはよ〜」
「おはよ〜」
「アンちゃんおはよっ、聞いてよアンちゃん!」
「聞いてよシホの逆ハーの夢を」
「だから違うってば!!!」
「朝から元気だね〜」
ごく普通の高校の教室の中で、ごく普通な少女たちの楽しそうな声が響く。
それはなんの変哲もない、いつもと変わらない時間。
異世界に召喚された聖女は、聖女である事を望まず、自分の世界へと帰った。
それを咎められる者はどこにもいない。
『一人の少女を犠牲に』しようとした国が返り討ちにあった。
ただそれだけの事なのだ……──
[完]
□補足□
・神→この世界を生み出した創作者。誰かの生み出した異世界創作の世界が平行世界のどこかで“現実”となり歴史を重ねている。
・悪魔→実は居ない。この世界が『誰かの創作した物語の世界』なので、魔物を作ったのも神なのだがそれを『神がそんなことする訳ない』という考えから考えられたのが悪魔という概念。
・神の国→日本。というか“現代”。異世界転移の影響で想像力が魔力(チート能力)へと変換される。