僕は緑色のカリフラワーでした。
もしかして、そこにいるのは…?
やっぱり!お久しぶりです!
ああ、実は、
大学受験をやっとこさ乗り越えたところなのです。
凄まじい経験でした。
僕の良さを表現する絶好の機会のようで、
僕を出荷するための機械化されたプロセスの一部のようで、
平等さの素晴らしさを感じるようで、
平等さの怖さを感じるようで、
合理的で、残酷で、
慈悲深くて、冒涜的で、
僕の脱中心化が
ゴリっとか、バリっとか、メリメリッとか
僕にだけ聞こえる聞くに堪えない音を伴って
問答無用でおこっておわったような
そんな気分です。
この後時間あります?
よければまた、
聞いていただきたいことがあるのです。
僕は、僕って緑色のカリフラワーだと思っていました。
僕はその日、10時間とかいう
僕からしたら狂気すら感じるほどの時間
勉強したものですから、
疲れ果てていたのです。
それで、
いかに大変だったのか、
どれほど頑張ったのか、
どうしてこんな目に遭ったのか、
自慢や、不満や、反抗や、
言葉にできないいろんなものでガチャガチャ
いってる頭の中について
母さんに聞いてもらおうと思ったんです。
そしたらきっと
僕に同情して慰めてくれるだろう
褒めてくれるだろう
一緒になって憤ってくれるだろう
そんなふうに思ったわけです。
それでまず僕は勉強した時間を、とんでもなく長い時間を、
同情を誘うように、滅多にないことのように、
めいっぱい強調して、
情緒たっぷりに報告したんです。
そしたら母さんは、
茹でているブロッコリーから目を離すこともなく
「そう、受験生って感じね」
そう言ったきりだったんです。
瞬間、僕の頭の中で、デジャヴともいえるような、
鮮明な既視感とアイデアが
ペンキを缶ごといくつも倒したみたいに
ばーーっと広がったんです。
僕は、緑色のカリフラワーって
ブロッコリーじゃんかって気付きました。
気づいてしまったのです。
気づいていなかった頃にはもう戻れません。
それからの僕は、
ずっとどうしようもなくブロッコリーです。
ああ、すみません、
話したことありませんでしたね。
話さないことが、その根拠になるみたいな、そういう話だと思っていたせいなんです。
全然そんなことないんですけどね。
今なら全然話せます。
僕は、今までずっと、
僕は緑色のカリフラワーだって思っていたのです。
僕の高校の制服は深い緑色でした。
校舎は四角くて
基本クラスとかいう単位で集団行動で
同じ話を聞いて
同じように指導されて
同じようなことで笑って、悔しがって、喜んで、泣いて、
そういう日々の中で
帰りがけに教室の窓から外を見下ろしたら
緑の点々が集まって
うごうごしながら帰っていくのが
唐突に、ブロッコリーに見えたのです。
まず感じたのは焦り。
“僕ってあれの一部なのか?”
次に感じたのは
“いや、こういう風に思った時点で
あれと同一にはなり得ないな。”
取ってつけたような安心感と密かな優越感
“でも、僕はああなるのを強要されているんだから、そう振る舞わなきゃあならない。言うなれば、緑色のカリフラワーだな。”
それから
身の置き所を見つけた確信と納得
馬鹿なことだ、
愚かだ、
これはいっそ中二病とか
それに近いものだ。
あなたも思うでしょう?
あーーー、ね、
そういう、ね、
みたいな、微妙な気持ちになりますよね。
ああ、もしかしたら、
あなたは最初っから、
僕のそういうところを見透かした上で
微妙な気持ちのままで
僕の気のすむまで
微笑ましいなあと、見守るように、僕の話を聞いてくださっていたのでしょうか?
ははっ、そんな、
そんなに必死になって否定されなくてもいいんですよ
僕はもう、これを今更、
恥ずかしいとか、気まずいとか感じてなんていられないくらい、あなたに全てぶちまけてしまっているのですから。
そういう相手がいてくれることを
実は僕は嬉しく思っているんですよ?
それに、
…
それに、
良かったなあって思う気持ちもあるんです。
僕はどうしようもなく自己中で
思い込みが激しくて
夢見がちでしたが、
確かに、あの時、僕は
万能で、
特別で、
世界にたったひとつの、
緑色のカリフラワーでした。
本当の本当は、なんでもできるわけじゃないわけじゃあなかったけれど、
これからの僕にはもうできなくて
あの時の僕ならできただろうことがたくさんあるなって
これからも増えていくんだろうなって
そういう、予感がするのです。
ここまで聞いてくれたあなたには、
あの、ブロッコリーが夕飯に出た日、
僕の中で起きた革命を、悲劇を、
僕の頭を打った衝撃を
わかっていただけるとおもうのですが、どうでしょう?
もしかして
あなたも経験したことがありますか?
僕が安心してなんでも話したくなる
あなたのその目は、雰囲気は、
その時からはじまったんですか?
それとも、
もとからあなたはそういう、
自らが賢いと思ってる人たちを見守れるタイプの
実はもっと賢い人だったんですか?
いや、これはあなたに聞いても意味がないですね。
それで、
僕は、
そういう、僕の心を丁寧にベキベキにへし折ってくれるイベントが詰まりに詰まった
わがままセットみたいな1年を終えて
ちょっとはオトナに近づいたような気がしていますが、
心細いというか、
その、
何をというわけじゃあないのですが、
どうかあなたに教えてほしいのです。
道を教えるとまでは行かずとも、
「そっちは大変そうだよ」とか、
「自分の時はこうしたよ」とか、
そのくらいの助言が欲しいのです。
また、あなたと話をしに来てもいいですか?
本当にありがとうございます。
それでは、また。