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僕はミトコンドリアより甘党です。

奇遇ですね



ここ、よく来るんですか?



僕はよく来ますよ

考査後のご褒美なんかに。



あ、いえ、今回は違いますけど。



ここ、パフェがすごく美味しいんですよ。


ちょっと恥ずかしいので、

学校の友達とは来れませんけどね。


来たとしたら、ナポリタンとブラックコーヒーを頼むんだと思います。



いやいや、飲めますよ!


たぶん。



1人の時はもちろん黙っていますが、

今日はあなたが隣に来てくれたわけですし、

お話ししても良いですよね?


ぜひ、聞いてください




僕は、僕なのか、僕の中の誰かなのかが気になっています。




誤解が生じそうですね


封印されし邪眼が疼く〜、とか、

左腕の古傷が痛むんだ……とか、

そう言うアレじゃないんです。



ちょっと前に

生命の神秘みたいなものを扱っている物語を読みました。


しっかり全部覚えているわけじゃあないのですが

それのことで僕が話したいのは、


僕は、僕の中に沢山の命が内包されているらしいことを知ったってことなんです。


その一つ一つが

お互い作用し合いながら

意図せず

いや、意図なんてあるかはわかりませんが


とにかく、僕を生かすために働いてくれているそうです。




僕は、僕なのか、僕を生かそうとする何かなのか知りたいです。




僕がこんなにもパフェが大好きなのは


甘酸っぱいイチゴで、

なめらかなバニラクリームのアイスで、

食感が楽しくてときどきコーティングの砂糖の塊を感じるフレークで、


頰が弛むほどの多幸感を得られるのは


僕が、それを好ましく思っているからなのか、糖分そのものを僕の体が欲しているからなのか、


それがどうにも気になってしまって 


スプーンで掬う手が止まってしまって



目の前が暗くなったような気がして



気づいたらパフェが台無しになってしまっていたりするのです。




僕は、僕なのか、僕の本能なのかわからないといけません。




僕の心を、僕はまだ完全に理解なんてできていません。


好きだ、という気持ちは、

嬉しい、という気持ちは、

悲しい、という気持ちは、

嫌いだ、という気持ちは、


いったいどこから来ているのでしょう。


苦い、というのは体に良くない食べ物に感じると聞いたことがあります。


なら、甘い、はその逆なのかもしれません。




僕は、僕なのか、僕じゃないのか、




僕が、


甘いものが好きなのは、


車より電車が好きなのは、


全部その方が僕のためになるから

なのかもしれない


僕が、


赤より青が好きなのは、


秀吉より半兵衛が好きなのは、


その方がいいと決まっているから

なのかもしれない


僕が、


佐々木たちをどうにも好きになれないと思うのは、


隼人や風見といると楽しいと思うのは、


成瀬さんが好きなのは、


そう決められたからなのかもしれない。




僕を支配しているのは、僕じゃないのか?




これまでずーっと僕は

僕の舵取りをしてきたつもりだったけれど、


実際僕はなんの権限も持っていなかったのか?

集合体「僕」の統合の象徴だったのか?


これまでも、これからも、

僕が好きなものを、人を、

純粋に選ぶことなんて出来やしないのか?




そうなのか?




いや、




……そんな、




そんな、

馬鹿なことあるわけない!



そんなわけない

僕は知ってる



たしかに、

成瀬さんには女性としての魅力があるから、僕は彼女を好きになったのかもしれない。


でも、それだけじゃない。

僕が落とした本を拾ってくれたところとか、

姿勢が綺麗なところとか、


普段は冷たさすら感じる美人だけど

笑うと顔がちょっと崩れるのが

なんというか、こう、

生きてる感じで、可愛いなって思ったりして


そういうところが好きだ




たしかに、

僕は車に乗るとすぐ気持ち悪くなってしまうし、顔も青白くなっているらしいから、体が拒絶しているのかもしれない。

 

でも、消去法じゃない。

広い窓をゆったり流れる景色とか、

足から伝わってくる穏やかなリズムとか、


それに、そう、

人類の叡智の結晶ですって感じのメカっぽい、駆動っぽい、無骨な外見も、僕の心の深いところを焦がす感じがして、


そういうところが好きだ。




もう一つ、

あなたも薄々気づいているかもしれませんが



これもう3つ目ですしね。


ええ、主食です。



自信を持って言えます。


僕はミトコンドリアより甘党です。


つまり、この、パフェが食べたくて仕方がない気持ちは、僕のものです!



好きな人も、ものも、決めているのは僕です!ぼくの中の小さな何かなんかじゃあなかったんです!



僕は本能に完全勝利しています!




僕は、僕だったのだと、確信しました!




僕の僕が預かりしれない未知の領域、

何かが支配してる本能的な部分は


僕の一部分として意思決定に影響を与えてはいるかもしれませんが、決定権は持っていません


僕は僕自身の感情と熟慮と努力によってのみ

僕を決め、僕を僕たらしめているのです!




そういうことで、

僕は、パフェを食べるたびに、不安になったり、自信を取り戻したりしているわけなのです。


側から見たら

ゆるゆるの顔で

目を閉じたり見開いたりしている

ものすごくパフェが好きな人ですけどね


実際店員さんはそう思っているんでしょうね


それじゃあなんだか不満で

あなたに聞いてほしいと思っていたのです。




あなたも理性的な人ですよね。

僕はそう思います。



ですから、



例えばあなたの目の前に


そう、ちょうど今のように


ジュウジュウ音を立てるがっつり肉厚のステーキが置かれていたとしても、



例えば僕がこれから


今、実際そうしようと思っているように


4つ目のスーパーデラックスストベリーパフェバニラアイス乗せを頼んだとしても、



選んだのは僕たち自身ですし、

僕たちは本能に完全勝利しているのです。


本能に負けたわけじゃあありません!




ええ、僕も、あなたもですよ、


もちろんです!





……





いつも、僕の話を聞いてくれて

ありがとうございます。



僕たぶん、今この地球上で一番幸せな人間です。


パフェの分ももちろん大きいですけれどね、

それだけじゃあないですよ。



それではまた、どこかでお会いしましょう。


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