僕はフロイトと仲良くできません。
ちょっといいですか?
どうか、聞いてください。
あなたに聞いてほしいんです。
これは重大な事件なんですから。
僕は心理テストが得意じゃないのかもしれません。
このまえ、
自分の番号の書いてある机に座って何時間も缶詰にされて
何百もある質問に答えてきました。
…あなたは好奇心が旺盛な方ですか?…
僕は好奇心が旺盛な子か、そうでない子。
…あなたは新しいことに挑戦する時に計画を立てますか?…
僕は計画性のある子かそうでない子。
僕はたぶん心理テストが苦手です。
妄想してるわけじゃあないと思うのですが、頭の中にイメージが浮かんできます。
透けて見える僕の完成図を無視して
僕は僕が振り分けられる箱を選ぶのです。
それから、その箱の形に合うように
飛び出ている所は
鉈で切り落とされて
ささくれ立っている所は
鑢で削り取られて
綺麗に四角くてすべすべな僕になるのです。
そうしてできあがったそれが
スポンッと入った箱と貼られたラベルを見て
先生たちは僕を知るのです。
先生たちは四角い子と丸い子をおんなじに扱ってはいけないことになっているらしいので、きっと僕には適切な教育が施されるのでしょう。
ゴミになったところが気になってしまう僕は
やはり心理テストを好きになれません。
占いは好きです。
絶対身近にないラッキーアイテムも
理不尽な本日の失敗確定も
嫌いじゃないんです。
だけど、どうしてか、
あの、いかにも、根拠のある、前例のある、システマチックな、あなた専用のカルテですって感じの押し付けがましいあのテストは、考えるだけで鳥肌が立つくらい
ダメなんです。
このモヤモヤする気持ちをどうしたら上手く伝えられるのでしょう。
例えば、そう、
《あなたの深層心理から好きな色を当てます
オレンジジュースとグレープジュース
どちらが好きですか?》
ときたら、オレンジ色が好きな僕はグレープジュースが好きだったとしても、オレンジジュースを選びます。
だって僕はオレンジ色が好きじゃなきゃおかしいですから。
僕はそういうことを
何百回もやったわけです。
こうあるだろうと思う理想の僕のために
本当の僕を捻じ曲げて回答し続けたのです。
それで、、、
それで、僕は、
本当の僕と理想の僕がうんと離れているものだから、心理テストが嫌いになってしまったのでしょうか。
理想通りでない僕が、
外側と内側がてんで違っている僕が、
はっきりと突きつけられるのがだめで、弱ってしまったのかもしれません。
いや、
いや、待ってください。
聞いてください、
そうじゃないんです
違うんですよ!
僕はそんな情けない男なわけないんです!
あんな、薄っぺらの紙切れに書かれた
あんな、先生たちの、
「私たちは生徒一人一人と向き合ってます」
の根拠のためにあるみたいな、
あんな心理テストごときに
惑わされる僕じゃあ、ないんです
そのはずです
…困ってる友達がいたら助けますか?…
助けますよ、もちろん、
僕は優しい男なので
…話し合いでは自分からグループを盛り上げるほうですか?冷静に見守る方ですか?…
僕はいつも自分でたくさん意見を考えていますから、盛り上げる方ですね
なんの問題もありません。
問題ないんですよ。
この問いでは僕に別の用事があって忙しい時なんて想定されてないですから、躊躇いなくいつまでも誰かを手伝えるし、
あの子を助けることで微妙な空気になるクラスメイトなんて存在してないんですから、誰にでも手を差し伸べられるにきまってるんです。
この問いでは話し合いの内容なんて決められていないんですから、僕は戦国時代についてみんなが知らないことをたくさん話せるし、
何かと仕切りたがりな斉藤さんも、話し合いなんてそっちのけで放課後のことを話してる佐々木たちもいないんだから、上手くいくにきまってるんです。
クラスメイトの顔色を窺ってしまって
それらしい理由をつけて見て見ぬふりをする僕なんて
できるだけ気配を消して
タイマーの残り10分が0になってアラームが鳴るのを今か今かと待ってる僕なんて
求められてないならないのと同じです。
何百もの質問で描き出される僕は完璧です。
完璧に四角くてすべすべです。
でも、、、
やっぱり、
その、よくわからない四角いのは僕じゃないんです
それを、先生が、大人たちが、
僕だと言うのはダメなんです、違うんです、
もとのべっこべこのガサガサでツンツンしてるのが、僕なんです!
認めたくないですが!あれなんです!
この屈辱! 劣等感!
勝手に自分で気づいてしまって
勝手に自分に絶望しているというのに!
でもどこか納得している自分がいるのが
いっそう腹立たしい!
…小さなことを深く考え込んでしまう性格ですか?…
そんなことないです!僕は、先生方がわざわざ気を割く必要のない精神の強い男ですよ!
…人の目線を気にして行動を変えてしまう性格ですか?…
僕には自我ってものがありますし!そんなに簡単に自分を曲げたりしません!
……
はあ。。
……なんて
心理テストなんてクソ喰らえ!
こんっなので僕がわかってたまるかバーカ!
そりゃあ、1人になるのを怖がって
周りに合わせて動いて
「ニホンジンですから」
なんて言葉で自分を納得させたりしますし?
左右違う靴下を履いてきてしまった日は
やたら小股の早歩きになる程度には気にしいですし?
人に気持ちを伝えるのも、ここぞという時にヒヨって誤魔化したりしますし?
意見曲げますけど?
曲げまくりのふにゃふにゃですけど?
でも、でもですよ!
いつ、どんな場面で
どう聞かれても答えが同じなんて、
そんな完璧人間います?
いや、いませんね!
なにが!協調性だ!
なにが!勤勉な性格で!
なにが!繊細な性格だ!知るかっ!
そんなもので僕をはかるな!
そもそも心をはかろうとする時点でおかしいんじゃないか?
いったい誰が心を掴んで引っ張り出して測定することなんてできるのさ!
今度、先生が
訳知り顔でわたしてくる紙の中では
僕は箱にぴったし入った量産高校生No.24の姿をしているかもしれないけれど、
僕は、僕だ!
この、捻くれてて、よわっちくて、プライドが高くて、
でも譲りたくない何かがあるような気がする変なのが、
僕なんだから!
削がれてたまるか!
最適化なんてされてたまるか!
ああ、そうだ!
僕は僕が理想から離れていることを堪え難い苦痛に感じているんじゃあない!
僕は僕の中途半端な部分が嫌いなくせに
心理テストという名の箱詰め作業で、それが無かったことになるのが耐えられないんだ!
きっと、僕の綺麗じゃない、強くないところを知った上で、僕を僕として知ってくれる誰かに飢えてる!
誰かに聞いてもらわなきゃいけない
知っておいてもらわなきゃいけない
そう、そういうわけで、
心理テストに勝手に叩きのめされて
つらくてたまらない僕を
ぐちゃぐちゃのどろどろになった心を
パフェの中盤でできる可哀想な層みたいになってしまったコレを
誰かに聞いて欲しかったのです。
同じようなことを思ったことがある人がいるかもしれない、
こんな僕をいったいどうすればいいのか教えてくれる人がいるかもしれない、
そう思ったのです。
頼んでおいてなんですが、
ここまで聞いてくださるなんて物好きですね。
ありがとうございます。
僕のコレに付き合ってくれて。
初めて会いましたが、
あなた優しいですね。僕はそう思います。
実のところ、
共感してほしいのか、慰めてほしいのか、笑ってほしいのか、叱ってほしいのか、
僕にもわからないんです。
もしかしたら僕はあなたに、貶されるかもしれないし、罵倒されるかもしれないし、「無駄な時間過ごさせやがって」と怒られるかもしれないですね。
でも、それでもあなたにとっての僕は
あのまな板の上のブロッコリーよりちょっとだけマシかもしれないなんて思えるんです。
僕の心理なんて
僕のことだって言うのに
わからないことばかりですが
一つわかるのは
僕はフロイトと仲良くできません。
彼よりもずっと
こんな独白を最後まで聞いてくれた
あなたと仲良くしたいです。
。。。なんてね、冗談ですよ
もうずいぶん遅いですから、
気をつけてお帰りくださいね。