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第16話 とある閑話

 数年前、その村はどこにでもあるごく普通の村だった。人々は家鶏かけいの鳴き声で起き、照らされる陽の下で汗を流して畑を耕し、夜に虫の声を聞きながら床に就く。

 

 しかし、幾代も続いてきた生活様式に変化が訪れた。それは数年に1~2度程度起こる凶作が続いた時だった。


 幾度となく村を襲う凶作に対して、村民達は毎年早い段階から準備をして乗り越えてきた。今回もちゃんと乗り越えられると、誰もがそう思っていた。


 だが、その年の凶作は違っていた。


 過去に例のない程の大凶作が村を襲った。なんとか収穫できた作物も来年の種の分を賄うにはとても足りなかった。


 凶作で収入が減っても関係なく領主からの納税の義務は発生し、さらに季節外れの流行病が村を襲った。


 幸いにして死者こそは出なかったものの、村人達に二重三重の苦しみが圧し掛かり、加えて飢えの苦しみから餓死の恐怖が頭を過る。


 村人の誰もが考えた。


ーこのまま飢えて死ぬのは嫌だ!!ー


 丁度その頃、一人の男が村に流れ着いた。その男は遠方から討伐された盗賊の生き残りで、村人も最初は男を殺す筈だった。


 しかし、男は自分の命を助ける代わりに、この村の危機を救ってやると言い出した。

最初は盗賊の戯言と思い聞く耳を持たなかった村人達も、憲兵が来るまでの間の余興と思い話だけでもと聞いてみる事にした。


 その男の話によると、近いうちにこの村の近くをある商人一行が通るとのこと。その商人は金になる木を持っているが、その木を植えられる安全な土地を探しているのだと言う。


 その商人に提供できる安全なこの土地を紹介すれば、この村は無尽蔵に金に困らない村になると言い出した。


 普段なら慎ましく生きる村民達にとっては到底信じられる話ではない。むしろ怪しく疑いの目が向く内容に誰も聞く耳など持たない筈だった。


 しかし、大凶作に続き重い納税と流行病に苦しめられ、尚且つ餓死の恐怖がすぐそこまで迫ってきている状況化では、盗賊の話す内容に皆目の色を変えた。


 その商人一行が持っている金になる木が、禁止薬草の霊薬マカザリ・アガヤだと知っても村人達に否の選択肢は無かった。


 訪れた商人一行は皆右甲に同じ刺青が施されていた。彼らはすぐにこの村を気に入り、自分達が持っている金のなる木の種の栽培方法を教えはじめた。


 その他に大切な事として、この村が安全な土地である為に村に新しいルールを作るように言った。


『村民以外にソレを話してはいけない』『自分たちはソレを使ってはいけない』


 


 それから数年が経ち、村は富に湧いていた。飢餓の恐怖から取り除かれた村民達の顔は皆明るかった。


 はじめて村人たちは心から幸福を味わった。


 しかし、その幸福も長くは続かなかった。 


 貧獄に生きていた村人達は知らなかった。人間は同じ幸せを長く味わう事が出来ない強欲な生き物だと言う事を。


 時の経過と共に、村人達の心に芽生え始めた欲求感情。


 『もっと欲しい』『もっと幸せを』『お金が、富が欲しい』『あれも、コレも、それも欲しい』『よこせ、ヨコセっ!! 寄越せぇ!!!!』


 一度覚えた甘い蜜を簡単に手放すはずもなく、そこに元盗賊が囁いた。


「旅人を襲う、しょせん旅人だ。一人二人消えた所で誰も気にしねぇさ。もしかしたら値打ち物があるかもしれねぇしなぁ」


 最初は元盗賊と村の若者数名が始めだした。


 村に来た旅人を襲って現金収入を得ていたが、旅人達の足取りが村を最後に消えてしまう事に、周りの村々から怪しい噂が出始めた。


 そこで今度は村の近くの森や野営地を狙う事にした。この案は上手くいき、数多くの旅人や行商人一家がその餌食になった。


 もはやそこに、在りし日の敬謙にして善良なる村人の姿はどこにもなかった。そこに居るのは、己の欲望をむさぼり食う醜い餓鬼がいるだけだ。


 そして一匹の餓鬼が思いついた。


「今度は冒険者を襲うぞ。油断して寝込みを襲えば大丈夫さ。アイツらは値のある装備品を身につけているし、女の冒険者や術師は舌と足を切って、家に閉じ込めるんだ。そしてその知識を頂こう。ついでに村の男衆の慰み者にして、村の子供をどんどん増やすんだ」


 幸いにして最近村の畑を荒らす獣が現れた事で、それを餌に冒険者を呼び込む計画がたてられた。


 やがて、その餌にまんまと食いついた冒険者一行が、餓鬼どもの目に留まった。


 小汚くフードで顔を隠す黒ずくめの恰好の男に、赤毛美人の魔術師が一人、そして剣士、弓士、重装盾の計5名がやってきた。


 自分たちが狩られるとは知らずに、のこのことやってきた冒険者達に餓鬼達は静かに喜び勇んた。



 


 本当に…自分たちが(・・・・・)狩られるとも知らずに…


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