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第94話 近づくための特訓

「だから私はヴァロン帝国の王族のところには戻らなかった」

「そうですね。それはしかたないです」


 それぐらいしか俺には言えないだろ。

 さすがに八百年寝られたら、人間側は失踪したと捉えるだろう。王族側も大変だったろうな。

 何か王族側で不敬をしたのか。暴風竜の機嫌を損ねたのは誰か。

 当時の皇帝は何もしていないが、ドラゴンに見放された皇帝として王族史には乗っているだろう。

 ドンマイ皇帝。俺の胸の中ではあんたは悪くないからね。

 まあ、このことを今の皇帝に伝えるつもりは微塵もないけど。


「ヴァロン帝国のことはもういいのよ。私が眠ったのも、鬱陶しかった周りの国を落ち着かせて、国内を豊かに安定させたから。もともと私の存在も必要なくなっていたの」

「なるほど。それなら離れるいい機会だったのかもしれませんね。ドラゴンが守護竜の国ヴァロン帝国。そんな国があり続ける危険性の方が大きかったかもしれませんね」

「ソラは賢いわね。ふふ。ドーラって呼んでいるのよね?ドーラが気に入るのもわかるわ。それに私があったことある人間の中でヴァロンにつぐ魔力保有量。どう?建国でもしてみる?」

「賢くないですよ。最近、ドラゴンと知り合いのことを話してはいけないと理解しましたし。それに建国はしません。」


 暴風竜さんは楽しそうに笑い、建国提案してくるが、ドラゴンが手伝うならできないこともなさそうだから怖い。

 そんなほいほい建国できるかよっていいたいところだが、ドラゴンがいるだけで、守護して欲しい人間や種族、魔物でさえ集まり。簡単にマンパワーの問題を解決してしまいそうだ。


 それに簡単に言ってくれるが、そんなことしたら俺がティナたちを愛でる時間が減るだろ。

 俺の自由が、生きがいが、天使が。

 そんな大切なものが遠ざかるなら、俺は建国などしない。

 まあ。ぶっちゃけめんどくさすぎる。


「ソラは良い魔力しているわ。守るための力でもあり、殲滅の力でもあるか。うん。嫌いじゃないよ」


 暴風竜さんは何を見て言っているんだ?魔力を見てそんなこと言っているのか?

 もうなんでもありだな。


「ちなみにティナちゃんはみんな元気にだったかな」

「すごいですね。なんとなくあってそうな気がします」

「私の魔力診断よ。あっているでしょ?これでも長生きなんだからね」


 ……そうですね。長生き長生き。

 

「風魔法の使い方も見事だったわ。特に武闘大会の透明な風。大鎌とも相性がいいし、でもだからこそ惜しいわ」

「惜しい?」

「ソラはこの世界の人のように自然の風と魔法の風を別の物として捉えていないのでしょ?」

「んー。別の物ではあるけど、俺はただ自然の風を魔法で再現したっていうのに近いかと」

「あら?そうなのね。その壁を破れたら私にもっと近づけるのに」


 その壁とはなんの壁だ?それにドラゴンに近づける……

 興味がありすぎる言葉だ。


「何の壁なんでしょうか?」

「自然の風と魔法の風の同一化。そもそも今ここを流れている風も、この世界がもつ魔力をもとに作られている物なのよ?」

「え?あのー、上昇気流や、下降気流による風では……」

「では太陽には魔力がない?ここはダンジョンだから少し違うけど、普通の地面には魔力がない?海には魔力がない?そう思うかしら?」


 んー日本ならないと断言できる……か?そもそも日本で魔力というものを感じたことがないしなー。

 正直そんなものはないと断定できない。

 それこそ悪魔の証明だ。

 証明が到底不可能な事柄を証明するようなものだ。


「わかりません」

「素直でいいわね。そういうのは大事なことよ。だからこそ私たちに近づくことができる。私もお気に入りになってしまいそうだわ」

「はぁ……」

「では教えてあげましょう。暴風竜であるフールが」

「フール?」

「私が今考えたの。ドーラだけ呼び名があるのはずるいからね」


 なるほど。即興の偽名と。

 それにドラゴンから魔法を教わることができる。こんな機会を逃すのはあほすぎる。

 風魔法のおそらく頂点に存在する暴風竜。

 師匠として、文字どり、この上ないほどの存在だ。

 

「フールさんお願いします」

「フールでいいわよ。それに敬語もいらない。敬われて喜ぶような時代はとっくの昔に終わったの」

「では、フールお願い。」

「はい。といってもあんまり教えることはないのだけどね。まずは自然の風を動かしてみなさい」


 自然の風を動かす?

 ダメだ。言っていることは理解できるが、理解できない。

 自然の風は俺の魔力ではないし、操作はできない……


 考えていてもわからん。

 こういうことは一から手探りで何かをした方がいい。


 自然の風を意識し、その後を追うように俺の風を当てる。

 ダメだ。これだと風圧がただ増しただけで、俺が自然の風を動かしていない。

 

 では、俺の風で自然の風を囲い。風を吹かせる。

 んー。なんとも微妙だが、これは動かせているのか?

 単に空気を捕えて、それが動き風になっているだけ。

 自然の風を動かしているとは呼べない気がするな。

 

「これだけの指示でそれをできるのは本当に頭が柔らかいわ。なかなか風を捕える発想はでないのよ。でも根本的には違うけど、そのやり方で見つかるものがあるはずよ」


 んー。なかなか鬼師匠なのかもしれないが。結局自分でやって感じ取るのが一番の地近道ってか?

 面白い。やってやろうじゃないか。


 風魔法をあたりに吹き回しつつ思考を続けていく。

 

 フールは自然の風と魔法の風の同一化と言っていたか?

 同じにするためには何が必要だ。

 再度風を俺の風の中に捕える。

 

 んー。同じにする……

 自然の風と俺の風との境界線はどこだ?


「いい目をしているわね。今は境界線探しってところかしら?」

「う、うん」

「集中しなさい。捕えていた風が出て行ったわよ」


 いや、フールから話しかけてきたじゃん。それもちょうど思考している内容に触れてきたから驚いたんだよ。


「ちなみにだけど、境界線はあるだろうけど私にはないわ」

「……」

「そこからはまた考えなさい。あとはこれだけ、透明な風でやってみれば」


 境界線は俺にはあって、フールにはないってことかな?

 それにこの精密操作を透明な風でやれとお師匠さんは言っているのかな?

 くぅー。泣けてくるぜ。

 もうちょっとヒントを……

 それもむなしくフールはやってみなさいと目で合図してくる。

 

 やれと言われればやるしかないな。

 

 

 そこから時を忘れ、あたりに風をまき散らしながら、単なる風の研究をした。

 気づくとフールの姿もなく、ティナのお腹すいたという声で俺の集中力に限界がきた。

 魔法の発動をやめ、ティナの声がした方を向く。


「ティナはたくさん話しできた?」

「うんっ。ドーラにいっぱい話したよー」

「よかったなー。魔法も見せた?」

「そだよっ」


 シュタッと魔法の棒を持ってポーズをとるティナ。

 今日も天使が楽しそうで何よりです。

 

「ティナ、ぎゅー」

「ぎゅー」


 ティナに両手を広げると、そのままぎゅーしてくれる。

 あー。研究で疲れ切った俺に天使の癒しが染み渡る。

 テトモコシロのもふもふも加わり、癒しが充電されつつあるよ。


「ほんとにいつまでも仲がいいのー。我らもするかの?」

「しないわよ。ドーラ」

「ぬ。暴風竜がドーラと呼ぶな。恥ずかしいであろう」

「私はフールよ。今さっき決めたの」


 俺とうちの子がモフモフタイムをしていると、ドラゴンたちは何やらふたりでじゃれあっている。

 ほんとに仲がいいんだな。

 まあ、ドラゴン同士で仲がよくてなによりだよ。

 ドラゴン同士仲が悪い世界線なら、この大陸は塵となっているかもしれない。


 昨日も今日の朝も焼き肉三昧だったので、今回は屋台で買ったもので簡単に済まさせてもらおう。

 ラキシエール伯爵家にお金を払い、入れ物含め、屋台で大量注文してもらった。

 さすがにラキシエール伯爵家の料理人に膨大な量を頼むのは気がひけたからね。

 

 さぁー、肉はテトモコシロ、ドーラ、フールのためにに出すけど、俺とティナは野菜中心の胃に優しい物でも食べような。


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