第65話 報連相は大事
貴族街の門を通り、ラキシエール伯爵家へと向かう。
「ごめんなさい。今戻りました」
ラキシエール伯爵家の門の前にいる騎士に声をかけ中に入れてもらう。
「お帰りなさい。ソラ君。少しお話があります」
屋敷の中に入り、自室に向かっているとサバスさんから声をかけられた。
こんな時間にも起きているんだな。
執事やメイドさんはどういうシフトで仕事を組んでいるんだろうか。
「まず、ティナちゃんをベットで寝かせましょう」
そういうと、俺たちに割り当てられた部屋へと入り、サバスさんはティナを寝かせていく。
「ソラ君はこっちへ」
言われるがままに、サバスさんについて行く。
なんだ?なにかしたかな?
少し冷たいサバスさんに疑問を受かべながら、サバスさんが入った部屋へと入る。
「ソラ君。今日はどちらへ?」
「えっと……鋼鉄のダンジョンだけど?サバスさんにも質問したよね?」
「はい。伺いました。ソラ君とティナちゃんがローブを纏って、モコちゃんに乗り颯爽と屋敷を去る姿を見送りましたからね」
うん。確かに見送られた記憶もあるよ。モコの上からだけど行ってきますとも言った気がする。
なんだ?なんか怒っている感じがするのだが……
「ソラ君の日帰りはいつまでですか?今は日を超えて数時間経過していますが。作っていた料理も冷めてしまいましたね」
あ、やっべ。
ダンジョン探索のことは伝わっていたみたいだけど、いつ帰ってくるとか言ってなかった。
特に夜ご飯が必要ない時は言ってほしいと頼まれていたな。
もしかして、俺たちが帰ってくるのをサバスさんは待っていたりしないよね?
「ごめんなさい。言い忘れていました。もしかしてサバスさんは俺たちを待っていたり……?」
「はい。もちろん。客人ですから」
「ごめんなさい。以後気を付けます」
これは申し訳ない。
仕事熱心とか思ってごめんなさい。ただただ俺が悪いだけでした。
頭を下げ、サバスさんの返事を待つ。
「ふふっ。冗談です。怒ってなどいませんから。頭をあげてください。」
そういうとサバスさんは笑い始めてしまった。
「いや、本当に反省しているんです」
「伝わっていますよ。私はただ心配していただけです。ダンジョンに行くとわかった時に私から聞けばよかったですね。夕食の時間を過ぎた時に気づきましたので、料理は従魔のロングホースに食べてもらいました。だから料理も残っていません」
あー。よかった。
料理も無駄になっていないし、サバスさんを怒らせてはいないみたいだ。
「フィリア様も心配していましたからね。明日にでも謝っておいてください」
「はい」
フィリアにも心配させていたのか……
それは申し訳ない事をしたな。
報連相は大事、特に人様の家にお世話になっているんだし、今後気を付けよう。
「お腹はすいていませんか?
「大丈夫。モコに乗っている時にすこし食べたから」
「そうですか。なら、もう遅いのでソラ君も寝てください」
「はーい」
そう言って部屋を後にする。
今寝たら起きるのは昼前になりそうだな。
明日フィリアは学校かな?屋敷にいたら謝りに行こう。
ティナの寝ている横に入り、俺も寝る。
翌日、ノックの音で目を覚ます。
「そろそろ昼食の時間ですが食べられますか?」
「ん。はい。食べます」
寝起きの頭を覚醒させ、メイドさんの声に返事をする。
もう昼ご飯の時間か。
ティナたちを見るが、みんなぐっすりだ。
一番早起きのモコですら、メイドさんの声で起きていた。
「わふわふ」
「あー、お腹が減ったな。ティナたちを起こそうか」
モコはお腹がすいているらしく、俺の横であくびをしている。
昨日はモコに結構な距離を走ってもらったからな。一番お腹が減っているだろう。
「ごはんだよー」
「んーーーー。ごはん?」
「にゃ?」
「きゅ?」
うちの子たちを起こすのはこの掛け声が一番だ。
声をかけない時は料理の匂いをかがせれば起きる。
「もうお昼だって。さ、早く起きて昼食をたべよっか」
「うにゃー」
テトみたいな声をあげながら、ティナは体を伸ばしている。
その横には同じ体制のテトシロがノビーっとしている。
朝からやることはみんな同じなのね。
動く気になった一人と三匹を連れ、食堂へと向かう。
「あ。あんたたちー。帰ってこないならいいなさいよね」
食堂で食事をしていたフィリアは俺たちに気づくと文句を言ってくる。
「心配させてごめん。言い忘れていたよ」
「べ、別に心配してなんかないんだからね」
「……」
申し訳ないが、フィリアにツンデレを求めていない。
フィリアにはモフモフ狂人というキャラがあるのだから余計なものを付け足さなくていい。
金髪で綺麗な女性だから似合うのがすこしむかつくが……
まあ、実際フィリアがツンデレしたら学校ではモテるだろうな。
一部の熱狂的な信者ができるだろう。
「なんか言いなさいよ。それにソラ変なこと考えているでしょ」
「な、なぜわかった」
「もういいわ。ほら、ティナちゃんたちが食べるの待っているでしょ。早く来なさい」
ノリにのってくれないのはダメだぞ。
でも、うちの子たちを待たせるのも悪いから、おとなしく席につき食事をしていく。
「今日は学校休み?」
「そうよ。明後日からヴァロン帝国の建国記念祭だからこの一週間は何もないのよ」
「祭り?なんかするの?」
「わたしは何もしないわよ。学生でもこの時期は家の手伝いが必要になる人がいるからね。それに帝国最強を決める武闘大会もあるし」
「武闘大会?戦いの大会か」
「帝都の西側に闘技場あるでしょ?あそこで行われるの。建国記念祭の目玉のイベントよ。建国した初代皇帝が決闘好きだったみたいで、毎年国中の猛者を集めて腕試ししていたそうよ。その時は気にいった武人を配下にしていたらしく、今でも褒美や王宮勤めの栄誉を貰えるわ」
ずいぶん戦闘狂の皇帝もいたもんだな。
世は戦国時代か?よく皇帝が決闘をやるのを周りが許したな。
それに王宮勤めが栄誉ね……地獄の始まりの間違いじゃないか?一種の罰ゲームだよね。
絶対俺はいらないな。王宮に縛られ、皇帝に縛られる。
俺は気楽で自由な冒険者の方が性に合っている。
でも、強者の戦いは気になるな。異世界転移してから強い人の戦いを見たのは銀髪のジルドさんぐらいしかないんじゃないかな?
あの時でさえ学ぶことが多かったし、ジルドさん以上がゴロゴロいるんだろ?
それは楽しみすぎる。なんとかティナをその気にさせて、毎日見に行きたい。
「闘技場は知っているよ。あの石でできたバカでかい円形の建物だよね?その武闘大会っていつから?」
「それで合ってるわ。建国記念祭の二日目からだから明々後日?」
「了解。観戦しに行こう。観戦チケットとかあるの?」
「ソラってそういうの好きだったのね。冒険者ギルドと商業ギルドで販売しているわよ」
「そりゃー好きだよ。なんせ職業Bランク冒険者だぞ。漢の中の漢だろ?」
「言いたくないけど、かわいい顔が台無しになるから髭だけは生やさないでね」
かわいいとか言うんじゃないよ。こちとら二十歳すぎてんだ。
今更可愛いと言われて喜ぶ年齢じゃない。
せめてカッコいいにしてくれ。
「それに、ソラが戦っているところを見たことないから興味があるわ。風の申し子、死神と呼ばれる強さを闘技場で見てみたいわ」




