第64話 保護者?
暗闇に支配されている草原をただひたすら走る。
空にはほんの少しの月明かりと星明かりが世界を照らしている。
昼間に感じた心地よい風は、すこし肌寒く夜の風貌を見せている。
行きとは違い、休憩することなく草原を走っているので、一時間ほどで帝都の城壁が見えてきた。
門の前にはあれほど嫌だった長蛇の列は姿を消し、すこしの明かりだけが照らされている。
そういえば、夜に帝都に入ることはできるのだろうか。
門の前にはテントや馬車などが置かれていないので、外で待っている人はいなそうに見えるが……
少し不安に思いながらも帝都の門に近寄っていく。
「そこの者止まれ」
門番をしている騎士に声をかけられる。
「冒険者です。依頼から戻ってきたのですが帝都には入れますか?」
「身分証をみせてくれ」
モコに乗った俺たちを不審に思っているようだが、冒険者カードを受け取り確認していく。
「帝都の物だな。この時間になぜ帰ってきた?」
「色々事情がありまして、日帰りに変更しました。依頼に関することなので冒険者ギルドで説明します」
「ふむ。いいだろう。子供だけだと危険だ。Bランクだからと言ってもあまり夜中にうろうろするなよ」
「はい。ありがとうございます」
ティナは俺に寄りかかり寝ているので冒険者カードを出してないが通してくれるらしい。
帝都の門番さんはいい人が多いな。
「はやく嬢ちゃんをベットに寝かせてあげなよ」
「はーい」
騎士のおじさんはそういうと、門の小さな扉を開き、中へ誘導してくれる。
モコに乗ったまま俺たちは人通りの少ない大通りを走っていく。
そのまま冒険者ギルドに向かうと人は少ないみたいだが、業務は行っていた。
二十四時間営業は助かるね。日本でもコンビニはよく使わせてもらった。
名前どおりの手軽な便利さだ。
そのまま二階へと続く階段を登り、受付に行く。
「すみません。今時間ありますか?」
「はい。なんでしょうか?買い取りですか?」
「それもあるんだけど……冒険者の死体を見つけました」
「え?」
話始めて死体のことを聞くと受付嬢は受付の後ろの部屋へと入っていった。
そして戻ってきたと思ったら、一人の男性を連れてきていた。
「帝都の冒険者ギルトの副ギルドマスターをしています。オリバー・エッセルと申します。冒険者の死体を見つけたとのことですので、別室で話しをさせてもらいます」
オリバーと名乗った男性は俺たちをつれ、三階にある部屋へと誘導する。
「では、どこで見つけたのですか?」
ティナをソファーに寝かせ、腰掛けた俺にオリバーさんは質問してくる。
「鋼鉄のダンジョンの四階層です。場所は詳しくはわかりませんが広い空間があるところでした」
「鋼鉄のダンジョンですか……死体はどのような感じですか?」
「一応、荷物と死体を持ってきているけど確認しますか?結構グロいですけど」
「わかりました。確認します」
そういうとシーツのような物を床に置き、俺に促す。
影収納から死体と荷物をだしていく。
「これは……ジャイアントキリングのみなさんですね。それに魔物のよる攻撃ではありませんか……」
「俺もそう思うよ。この死体を見つける前に銀髪の赤いドレスを着た女性に会ったんだけど知りませんか?」
「銀髪の女性ですか……いるにはいますけど鋼鉄のダンジョンに行く人には思えませんね」
「うちの従魔がその女性から人間の血の匂いを感じとったらしいので、俺たちは野営場所を変え、新しいところを探している時にその死体を見つけました。俺は銀髪の女性が怪しいと思っているのですが……」
「話を聞く限りではそのように思えますね。わかりました。協力感謝します。最近Dランクから上の冒険者パーティーがダンジョン探索中に行方不明になることが多いので、ギルドでも調べていたのです。どうやら銀髪の女性が関係しているかもしれませんね」
Dランクから上ってことは中堅から上位冒険者だってことだよな。
多くの冒険者はCランクで止まり、安全第一、適度に活動し生活していると聞いたことがある。
そんなC、Dランクの人がダンジョンで行方不明になるだろうか?
職業として冒険者を選び、生活費を稼ぐ人が無理をするとは考えづらい。
まあ、S,A,Bランクの人は別だよ?何を目的にダンジョン探索しているか知らないけど、おそらく浪漫や財宝目当ての物だろう。
そういう人達は行方不明になったとしても不思議ではない。
どれだけ強者であろうと、無理や理想を求めると、コロッと死んでしまうものだ。
「うちの従魔は人間の血がこびりついていたと言っているので、おそらく殺人を日常的にしている人かと」
「なるほど。わかりました。ジャイアントキリングの荷物は発見者のソラ様に所有権があるのですが、このままお持ち帰りになられますか?それとも、支払うのに時間はかかりますが冒険者ギルドでも買い取りができますが」
「いや、いらない。親族とかいないんですか?」
「いたとしても所有権はソラ様になります。冒険者として活動していますと親族を探せないことも多く、だいたいはギルドで買い取りますね。それにジャイアントキリングは最近帝都で活動していますが、様々な国で活動経験がありますのでおそらく親族を見つけるのは難しいかと」
んー。自由である冒険者の弊害だな。
形見として親族に渡すのも難しいのか。
それに、国が違うと輸送費などもかかってくるだろうし、着くまでにどれぐらい荷物が残っているのかは疑問だな。
冒険者ギルドが探したり、輸送したりする経費を払うはずがないだろうし、荷物から支払うしかないよな。
「わかった。全部ギルドに買い取りをお願いするよ。買い取り金額すべてをセレーネ教会に寄付しといてくれないかな?」
「それはできますがよろしいのですか?Bランクパーティーの物ですので、装備品だけでも結構な額になるかと」
「いいよ。金にこまってないから」
「わかりました。天使の楽園様のソラ様、ティナリア様名義で寄付させていただきます」
寄付の話を聞くとオリバーさんは穏やかな目で俺を見てくるが。
そんないい子を見る目でみないでくれ。
ただ、ナイフで何回も突き刺された死体のグロさを、お金を見た時に思い出したくないだけなんだ。
別に拾い物をもらうのが申し訳なくて、セレーネ教会に寄付するんじゃないからね?
こんな冒険者殺害事件のことなど思い出したくないだけなんだ。
「なにか困ったことがあったらいつでもオリバーを訪ねてきてくださいね。私の全力をもってお力添えします」
あー。オリバーさんが保護者の目をしているよ……
俺、そんなにいい子じゃないんだよ?
あ、俺だけね。うちの子たちはいい子だから存分に可愛がってあげてほしい。
「ありがとう。この子たちが困っていたら助けてあげてほしい」
「わかりました。ソラ様もお助けしますね」
ダメだ。言葉が通じていないようだ。
深夜だからなのか?働きすぎて疲れているんじゃないか?
二十四時間営業の冒険者ギルドはブラック企業か?
さっきまでの暗い雰囲気は飛び去り、生暖かい雰囲気が漂っている。
ううー。オリバーさんのこの目は慣れん。
非常識とか馬鹿にしてくるルイの目の方が何倍もマシだ。
どうやら俺はいい子じゃないみたいだ。
オリバーさんが部屋を出ていくのについて行き二階へと戻る。
「あ、そういえば、これの鑑定ってお願いできる?」
「鑑定依頼ですね。できますよ」
「じゃー、お願い」
影世界でティナが見つけた金色の指輪。
これの鑑定をしてもらいたかったのだが、案外冒険者ギルドに行く予定がなく、この際だだからしてもらうことにする。
サバスさんの話だと魔道具らしいけど、さー、鑑定はいかに。デデン。
「こちらはマジックバックですね。非常に希少なリング型のマジックバックです。どこのダンジョンでみつけたのでしょうか?」
ほー。予想のだいぶ斜め上の回答だ。
指にはめる魔道具について調べてみたのだが、属性魔法の強化や魔法操作向上のための補助魔道具が一般的だった。
中には指輪が武器に変形するという魔道具があったけどね。
できればティナの魔法補助をしてもらいたかったのだけれど、マジックバックなら需要はあるか。
ティナの宝物を入れるのに使うか?現状でもバックに入り切れていないし、結局テトがそのまま収納しているからね。
「おじいちゃんの形見なんだ。普通の指輪だと思って持っていたんだけど、知り合いに魔道具だって言われて、鑑定しにきたの」
都合の悪いことはここぞとばかり親戚頼み。
落ちてましたって素直に言ってもめんどくさそうだし、ダンジョンで見つけてないから質問には答えられない。
こういう時にこそ身分不詳の貴族設定を使うのだよ。
「そうでしたか、中身の鑑定はされますか?」
んー。どうしようか。
おじいちゃんの形見とか言ったし、これで禁制の薬物とか出てきたらまずいよな。
早くも親戚の名を使ったことに後悔してしまった。
この受付嬢やり手だ。
んー。潔く帰ってから自分で調べるか。
わからない物はまた鑑定しにくればいい。
「おじいちゃんのだから、またわからないやつがあったらお願いするよ」
「わかりました。今回の鑑定料は銀貨一枚です」
「ほい」
銀貨一枚を財布から取り出し、受付嬢に渡す。
千円か。安いもんよ。
「あ、あと魔物の買い取りと依頼品のやつもお願い」
危ない、金色の指輪を受け取ってそのまま帰るところだったよ。
今日は珍しく普通の依頼を受けていたんだった。
前回と同様に男性職員に手伝ってもらい魔物の死骸を出していく。
四階層分のスケルトン、ゴーレム、蝙蝠、トカゲだ。
夜だからか、一人の男性職員でしていたが、やはりスケルトンとゴーレムが重いらしく応援の男性二名が追加されている。
ほんとにごめん。これに関しては、俺は無力だ。
全身鉱石の二メートル級のゴーレムなんて、子供の俺に持てるはずなどないのだ。
心の中で謝罪しながらも、影収納から魔物を出していくのをやめない。
「それで依頼のやつとあまりは買い取りお願いしてもいい?」
「わかりました。書面にしますのでお待ちください」
「あー。それ俺いらないからいいよ。口座に振り込んどいてよ」
「わかりました」
内容の書面なんて見ないし、冒険者ギルドが不正なんてしないでしょ。
それに俺はいち早くティナをベットで寝かせてあげたいんだ。書面をつくるのを待っている余裕などないのだ。
モコに寄りかからせているティナを抱っこしてモコの上に乗り、ラキシエール伯爵家へと進んでいく。




