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第50話 影から見る世界は楽しいですか?


 俺たちは解体の書類を貰いに二階へと戻る。


「おう、坊主。何事もなく終わったみたいだな」


 さきほどの竜神ゼンから声がかかる。


「うん。敵じゃないみたいだからね」

「そうか。よく知らんが、あんまはしゃぐなよ」


 そういって、ゼンさんは階段を下りて行った。

 終わるの待ってたのかな?

 もしかして、俺が暴れるとでも思っていたのか?

 マクレンさんの知り合いらしいし。警戒していたんだろうな。

 こわいこわい。あんな化け物に警戒されたくなんかないよ。


「ソラ様、お待ちしていました。こちらが内容の一覧です。確認ください」


 受付嬢から紙を渡されるが……

 結構前のものだからな、覚えてないし、名前を元々知らない魔物すらいる。

 グスタさんに教えてもらった魔物いるが、それだけじゃないし。

 それに、俺は適当に出すだけで後は職員さんにお任せしたからね。


「確認しました」

 

 さらーっと目を通し、受付嬢へと紙を渡す。


「こちらはソラ様がお持ちください。高額になりますが、手渡しされますか?商業ギルドで口座を作られていらっしゃるなら、そちらに振り込むことは可能ですが。その場合商業ギルドにいき口座を確認することで金額の確認ができます」


 おおー。それは便利だ。

 冒険者ギルドと商業ギルドはつながっていないと思っていたが、そんなやり取りしてくれるんだな。

 まあ、高額の金を持っていると危険だしな。


「口座に振り込みでお願い」

「わかりました」


 解体のことも片付いたので階段をおり、冒険者ギルドからでる。

 二階から降りてきた俺たちに周りの冒険者が視線を送っていたが総スルーで。

 後ろから女性冒険者の声が聞こえるが、それもスルー。


 うちの子は天使だけど、そんなに安くないよ。


「ティナ、何かしたいこととか、見てみたいものある?」


 少し元気のないティナを元気づかせようとやりたいことを聞いてみる。

 モコの上に乗ったまま、腕を組み考え始めるティナ。


 ずいぶんと器用に乗れるようになったな。

 初めは抱き着いてキャーキャー言っていたのに。


「モコちゃん近づいて―」


 ティナはモコに指示し、俺に近づいてくる。

 ?なんだ?かわいいんだけど……

 とりあえず、手を広げてみる。

 とりあえずね。


「?」


 不思議がっているが、モコの上から腕をのばして、俺に抱き着いてくる。

 あー。うちの子天使です。

 みてください皆さん。こんなに可愛いうちの子。

 もちろん、ギルドの入り口の目の前で行われているので、視線の数は多い。

 街中を行きかう住人、商人、観光客、冒険者……

 数多の人間の目が俺たちへと集まる。


 ティナの抱き着きが終わり、モコの上に乗せてあげる。


「可愛い兄弟だね。はい、アメちゃん」


 歩いてきたおばあちゃんがアメが入った瓶を渡してくる。


「もらっていいのっ?」

「かわいいお嬢ちゃんとお坊ちゃんにあげるよ」

「ありがとっ」


 ティナにアメの瓶を渡すとおばあちゃんはそのまま歩いて行ってしまった。


「アメちゃんもらったっ」

「そうだな。よかったね」


 喜ぶティナを撫でていると、ティナが突然声をあげる。


「ちがうよ。抱き着きたかったんじゃないの」

「違うのか?」

「……ちがうくないけど、ちがうっ」

 

 少し考えてティナは答える。


「なにがしたかったの?」

「あのね……影にはいってみたい」


 再度、俺に近づき小声で俺に伝える。


 あー、影世界のことか。

 確かに、バカ冒険者で検証して時に一緒に入る約束をしていたな。

 あの後、買い物やフィリアの依頼があったから、すっかり頭の中から消えていたよ。


「いいよ。でもあんま面白いところじゃないぞ?」

「いいのっ」


 俺たちは大通りを少し歩き、小道に入る。

 帝都でもやはり、少し小道にはいれば人通りが少ない。

 物陰にいき、そのまま全員で影入りする。


「わぁー。灰色だぁー」

「きゅうきゅう」


 入ったことがないティナとシロは大騒ぎだ。

 小道をあちこち走り回っている。

 地面を触り、壁を触り、人に触ろうとして手が空を切る。


「すごーーい。みんな見えてないよー」

「だろ?不思議な世界だ」

 

 ティナはおもむろに俺をタッチする。


「ん?」

「ソラ、触れたー」

「そうだな。灰色に見えない人や物は触ることできるぞ」

「おもしろーい」


 俺の手をとり、大通りへと歩き出す。

 人々が行きかう灰色の世界を何も気にすることもなくまっすぐ進んでいく。

 思わぬ帝都観光になっているが、街を見るだけならこれでもいいのか?

 商店は扉が開いたままで、営業している店も多く。

 本当に見るだけの客になっている。


 難点なのは、物が何かわからないときの対処法がなにもないってことだけだな。

 ティナは客と店員が話している近くでふむふむと頷きながら聞いている。

 ティナが楽しそうならそれでいいか。


 もともと好奇心旺盛なので、店員さんの話を喜々として聞いている。

 ちなみに、テトモコシロは誰にも邪魔されないから、大通りを走り回っている。

 たまに店に入るけど、棚に乗ったり、台に乗ったり。やりたい放題


「何か欲しいものがあるなら買うか?」

「ううん。また買って。影楽しい」


 気になる物があるみたいだが、影の世界が楽しいらしい。


「ねー。あれ触れる?」

「ん?」


 店をでて、街中を探索しているとティナから声がかけられる。

 ティナのさす方向には金色のリングにエメラルドのような宝石がついた指輪が落ちていた。

 ん?金色の指輪?

 確かに俺の目には石造りの道の上に金色に輝く指輪が見える。

 

 影世界で初めて俺が持ってきたもの以外の物をみた。

 まあ、そもそも影世界にあんまり入っていないのもあるが。


「とっていい?」


 ティナは指輪の近くにいき、俺に尋ねる。


「ティナ、まって」


 影世界に落ちている指輪。

 影魔法が使える人が落とした物か、影世界に入れられた人の物のどちらかだ。

 

 魔道具という未知数の物がある世界で指輪を簡単に手に触れていいものなのだろうか。

 でも、すでに無視できないほどの興味を抱いてしまっている。


 指輪の形状をしているということは、指にはめてみて効果が表れるのではないだろうか。

 俺が職人ならそのように作るけど……

 それに、基本的に魔道具は魔石か、魔力を注ぐことで効果を発揮する。

 このエメラルドの石。これは魔石なのか?魔力も持っている宝石でもあるのか?

 くそ、ここにきて魔道具の知識がないことを悔やまれる。

 どれだけ考えてもわからない。


「ソラ、とってもいい?」


 ティナから催促の言葉がくる。


「俺がとってみるよ」


 意を決して、金色の指輪に触れる。

 少し触れてみたが、特に異変は感じられない。

 そのまま、指輪を手にとり、手のひらに乗せてみる。


「きれいだねー」

「そうだな。誰の物なんだろうな」

「騎士さんに渡す?」


 騎士は落とし物の管理もしているのか?

 んー。影魔法に関わる物ならそのままいただきたいが。

 それに、どこで拾いましたか?と言われても事細かに話すことができない。

 まあ、嘘を言えば良いだけだが。ティナは顔にでるからな。


「影世界で見つけた物だしもらっておこう」


 冒険者ギルドに行けば鑑定してもらえるだろうか。

 とりあえず、屋敷に戻ってフィリアに聞いてみるか。


「ティナ。もうそろそろ帰ろうか」


 空を見上げると、灰色の世界で薄暗く輝く太陽が西に沈もうとしている。

 街中の人込みに変化はないが、気持ち屋台に並ぶ人が増えたようだ。

 この世界にいると昼夜の違いを薄く感じる。

 それが心地よくもあり、少し不安にも思う。

 人が行きかう場所にいるのにも関わらず誰にも見えない。干渉することができない。

 この広い世界で、ただ俺一人だけが生きているのではないかと錯覚を起こしてしまいそうになる。

 世界を見ることができる、聞くことができるだけの悲しい世界だ。

 

「ソラ?帰ろうっ」

「うん」


 小道の物陰から表世界へと出て、フィリアの屋敷に向かって歩みを進める。


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