第42話 神様のいうとおり
「いくわよ。なんで旅の始まりで疲れた顔しているのよ」
「ごめん。少し精神が疲弊していてな」
俺たちは三日間のギルドでの仕事を終えることができ、帝都へ向かう馬車の前にいる。
ギルドでの生活は想像していたよりはひどいものではなかった。
それの主な理由は俺が料理をしていたからだ。
初め、女性たちは俺のことをただ見つめるだけという、世界一無駄でなにも生産性のないことをしていたが、料理を教えることができると気づいた女性を発信として、一緒に料理をし始めた。
これは元カレが好きだった煮物よ。
冒険者のカレが好きなグラタンよ。
など、俺が好みそうなものの作り方を教えてくれたのだ。
これは正直ありがたかった。
大学生になり、自炊するぞと活きこんでみたもの、作るのはシチューやカレー、肉じゃがなどの簡単料理。
それに途中から気づくのだ。
毎日自炊することなんてありえないと。
友達との付き合い。先輩との付き合い、彼女との付き合い。
そういうものの積み重ねで、冷蔵庫の食品が腐っていく。
減らない食材、家にいない時間の多さ。
そして次第に作らなくなる。
普段何食べているのかを問われて答えたが、少し注意されてしまった。
ティナちゃんもいるのだから、バランスの取れた食事をするべきだと。
野菜などの料理は食べているつもりだったが、やはり屋台で済ましていると不十分らしい。
様々なレシピ。本をもらったので、今後に活かしていくつもりだ。
それに、ティナたちも楽しい四日間だったらしい。
少し話を聞いていたが、冒険者から聞いた冒険談、恋愛話、貴族のうわさなど、小説でファンタジーと呼べるものの実話をたくさん聞かせてもらっていた、
元々読書が好きなティナは、話し上手な歴戦の猛者の女性たちの話を喜々として聞いていた。
ダンジョンにも一層興味を抱いたらしく、また行きたいというので、落ち着いたら行くことにする。
総じて三日間はよかったが、やはり、年上女性に囲まれた状況で生活するのは疲れるものだと再確認できた。
「そう、早く乗りなさい」
フィリアに急かされ、俺たちは馬車へと乗る。
「今日は次の街で宿に泊まるんだっけ?」
「そうよ。ごめんけど違う宿になってしまったの。従魔が泊まれる宿が満室だったみたい」
「ぜんぜんいいよ」
宿が満室なのはしかたがない。
そもそも従魔が泊まれる宿じたいが少ないらしいし。
今回通っている街道は来たことがないところだ。
あまり風景に変化が見られないが、街道がいつもの物より少し広く感じる。
うちの子たちは気持ちよさそうに草原を走ってる。
今日は珍しく三匹揃っての並走だ。
追い越したり、ステップしたりご機嫌なようだ。
たまには外に出してあげた方がいいな。
やはり、外を走るのが好きなんだな。
盗賊などのハプニングもなく、順調に馬車は進んでいく。
「今日はあそこの街に滞在するわよ」
「了解」
「はーい」
門をこえ、街の中を進んでいく。
「ごめんけど、ソラたちはここの宿をとっているから」
見えるのはごく普通の宿だ。
一応、フィリアの方は貴族がよく使う高級宿に泊るらしい。
もともとスレイロンで泊まっていた幸せ亭もそんなに高い宿ではない。
風呂とトイレ、きれいなベットさえあればいい。
代金はなぜか、予約段階で伯爵家が支払っているみたいだ。
セバスさんに聞いたのは、友達と同行する時は爵位が高い方の家が払うものらしい。
俺は平民、ティナ公爵家、フィリア伯爵家。さあ、どっちなんだろう。
言っていないので関係ないのだが。
「じゃー、また明日」
「フィリアおねえちゃんまた明日っ」
「またね」
俺たちは宿へと入る。
部屋に案内してもらうが、まったく不満もない。
それに、幸せ亭より少し広いぐらいかもしれない。
値段を聞いていないのでわからないが。幸せ亭よりランクが高い気がする。
スレイロンに近いこともあり、特別この街で見るところもないので、宿の食事を食べ、そのまま眠ることにした。
「にゃー」
「わん」
テトモコの声が聞こえる。
目を開けてみると、視界には黒一色で埋められており、モコの大きな顔が見える。
ん?なんで大きいサイズなんだ?
「にゃにゃなーーん」
え?武器を持った人がいる?
「そりゃー、冒険者もいるだろう」
「にゃー」
よくみると、テトモコは臨戦態勢になっており、あたりを警戒している。
窓から入る光はまだない。夜中かな?
「敵か?」
「わふ」
「何人ぐらいだ?」
「わふあふ」
「影入り」
俺はティナを抱き上げ、影世界へと入る。
俺に遅れて、シロを咥えたモコ、テトが後に続く。
十人以上の敵意を感じたといわれれば、とりあえずティナの安全を確保するしかない。
「モコ、ティナとシロのことを任せるぞ」
指示を聞くと、影世界で宿の床に寝そべり、ティナとシロを漆黒の大きな体で受け入れる。
「テト、相手の意図を知りたい。瞬殺はするな。何人かは生かせ」
「にっ」
俺たちは敵意を向けている敵が入ってくるのを待つ。
こういう時、影世界は不便だ。
扉や窓を開け、外に出ることもできないので状況の把握もできない。
表世界に出てもいいのだが、それだと、多少のリスクが発生する。
相手の力量もわからないままでの戦闘は分が悪い。
宿に向けての夜襲なら構わないのだが、俺たちに向けての夜襲なら、俺たちの能力を少しは把握しており、対策している可能性がある。
足音が近づいてくる。
音を消しているみたいだが、こちとら、死の森でテトモコとやりあってたんだ。
そんなに音を出しているとモコに怒られるぞ?
まぬけな侵入者を心のなかで煽っていると部屋の扉が開けられた。
入ってきたのは五人。黒い仮面をしており、表情が読みとれない。
「にゃ」
俺たちの部屋の窓から見えるところに六人か。
俺たちを狙っているのは確定か?
何が目的だ?
一人が無言でベットへと進み、すこしふくらみがある布団にナイフを突き立てる。
「なに?いない」
感触がないのに気付いたのか、慌てだし、あたりを見渡す。
生憎、この部屋はワンルームだ。収納もない。
探すところなんてベットの下ぐらいだろう。
ほら、甘えてくれよ、話し出してくれよ。
俺とテトは影世界で、いつでも飛び出せるように待機をする。
「依頼人の話ではこの部屋にいるはずだろう?なぜいない?」
「知るか。この部屋に入る姿を確かに見た。それに伯爵家のところに行った姿も見ていない。外からの合図もない。いつ逃げられた?」
「話していても何もすすまん。どうする? アクトスに戻るか、次の機会を探すか」
「アクトスに戻る。従魔がいる相手の近くをそんなにうろつくことはできない、匂いを覚えられてしまう」
ありがとさん。もう十分だ。
「テト」
表世界に出て、大鎌で話し込んでいる三人に切りつける。
何の抵抗、手ごたえもなく、首を切断。
テトもしっぽの先に水の刃をつけ、残りの二人の首を断ち切る。
すぐに影収納の中に死体と血を入れていく。
あっけないな。
戦闘と呼べるものさえなかった。
おそらく、何も気づかず死んだのだろう。
幸せだったな。
ここの影にティナがいなかったら、もっと時間をかけれたのだがな。
拷問は外のやつにするよ。
部屋を出て、宿の入り口へと向かい扉を開ける。
「影入り」
影世界で残りの六人を探す。
中の様子は見えていないようで、そのままの場所で六人全員を確認にした。
「遅くないか?」
「持っているものでも物色しているんでしょ、収納スキルもちは死んだら周りに物が落ちるっていうしね」
「俺たちも行かないか?」
「ダメだ、任務に集中しろ」
だれにしようかなてんのかみさまの、い、う、と、お、り。
きーめた。
「テト、あの男以外いらない」
「にゃ」
影世界で移動をし、六人の後ろに立つ。
「GO」
その合図でテトは五本の槍を生み出し、五人の頭めがけて放つ。
俺は影世界へと選ばれた男をいざなう。
「な、なに?」
「静かにしてくれないかな?」
動揺している男に、考える隙をあたえず、両足の健を切る。
「ぐはぁーーーー。ああああ」
「ねえぇ、静かにってわからないの?」
足が痛いのだろう、うめき声をあげる男。
「君は選ばれたんだ。知っていることを話したら生かしておいてあげる」
「なにをい、いっている」
「依頼の内容と、依頼主を教えて、じゃないと……」
首に大鎌の刃を当てる。
まあ、絶対に振りぬいてあげないけど。
「お前を殺すことだ。依頼主は知らない。上からの命令だ」
「ふーん、知らないか」
観念したのか、ペラペラと話し出す男。
こいつには秘密を守る気さえないのか?
再度聞き出すために、風魔法を発動し男の体の中心へと全方位から風の圧を加える。
「本当だ、知らないんだ」
「そうか、おもしろくない、上からってことは組織だよね?」
「闇ギルドだ」
「そっか、じゃーもういいや。ありがとね」
俺は影世界に男を残し、表世界に戻る。
「にゃー」
「うん、殺してないよ。生かしてあげるって言ったしね。今回はそのままにしておいたよ。その方が苦しむだろ?」
「にゃにゃん」
「だろ?まあ、動けないだろうけど」
俺とテトは宿へと戻り、扉を閉め、部屋へと戻る。
部屋の床にはモコたちがいたので、そのままティナを抱えベットで寝かせる。




