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第38話 宣伝活動は続くよ

 修羅場をのりこえた俺は、へとへとに疲れきっていた。

 本当にひどい目にあった。

 うちの子たちはいつも、あんな好奇な目で見られているのか。

 

 俺は大通りで人の目など気にせず、モコに抱き着く。

 モコも突然抱き着かれ、しっぽがぶんぶんと振られている。

 癒しだ。 

 俺はやはり、癒される側でいい。

 決して癒しの対象ではないのだ。

 

「ソラ……なにしているの?」


 突然頭の上から声が聞こえる。

 ティナの声ではないな。

 俺は声の主を確かめるために、モコから離れ、振り返る。


「ミランダさん?」

「大通りで宣伝してくれるのはうれしいのだけれど、モコちゃんに抱き着いてだらしない顔をしないでくれない?」

「俺の勝手だろう。うちの子は世界一可愛いんだ」

「ソラが私服として、モコちゃんパーカー着るなんてどうしたの?あんなに嫌がってたのに」

「はぁっ」


 忘れていた。

 冒険者ギルドの女性にもてあそばれた俺はそのままの恰好でギルドを出てしまっていた。

 そして、大通りでモコの姿をした俺がモコに抱き着いているところを見せてしまった。


「あれって、死神だよな?そんな怖そうにみえないぞ」

「バカ、やめろ。大鎌で切り裂かれるぞ」

「やっぱりいい子なのよ。ちゃんとお兄ちゃんしてる」


 近くで冒険者の声が聞こえる。

 死神はもう受け入れよう。

 少しカッコいいし、気に入っている。

 だが、いいお兄ちゃんていうのは恥ずかしいからやめてくれ。

 もちろん、うちの子のためならいつでも、いいお兄ちゃんでいるつもりだが、お前たちに見せるためにお兄ちゃんしているんじゃない。


「もうなにしているのよ」

「脱ぎ忘れただけだ」


 そう言って、すぐにモコパーカを脱ぎ、いつもの神様印ローブに着替える。


「わふ」

「ごめんて、宿で着てあげるからな」

「にゃー」

「きゅうきゅう」

「わかったって。テトシロのも着るからさ。宿まで待って」


 脱いだら脱いだで、うちの子たちから非難の鳴き声が聞こえる。

 可愛い子たちだ。

 宿でうちの子ごっこしてやろう。

 もちろんティナも着せ替え人形にするがな。



「それに私は言いたいことがあるんだけど」

「聞きたいことは俺もあるが、とりあえず、なに?」

「あなたたち、なぜ大通りで宣伝してからすぐに街を出るのよ。店で幼い子に犬ちゃんどこいったの?って聞かれる私の身にもなってよ。なぜか、その親も私があなたの保護者的なものだと勘違いしているし。全然、あなたたちの行動を知らないし。本当に困ったんだからね」

「あー、それはごめん。領主様からの依頼があったんだ今までヘンネルにいたよ」

「それは、数日して冒険者ギルドに聞いたわよ。商売のことで困っていると言ったら、ギルドマスターが教えてくれたわ」


 俺たちにプライバシーというものは存在しないのか?

 仮にも領主様の使命依頼をこなしていたんだが?

 そもそも、個人情報の保護など存在していないのかもしれない。


「ごめんごめん。で、なんでもう販売してるの?確か、まだ一か月はたってないはずだけど」

「それは予約数がとんでもないことになったから、出来次第販売することにしたのよ。一気に販売開始にすると店が混雑して、商売にもならなくなりそうだったからね」

「なるほど。それはよかったね」

「他人事じゃないんだからね?でも、職人も良い意味で忙しそうだったわ。今度はこれを帝都でもはやらすわ」

「……」

 

 ここで、今度帝都に行くことを伝えてもいいのだろうか。

 そうすればミランダさんは一緒に来るって絶対に言いそうだ。

 そうなると未来が見える。

 帝都を歩き回るうちの子たちとテトモコシロに扮した俺が。

 黙って行ったとしても、いつかばれるのか。

 もし、ばれたら怒られそうだな。

 お金のことになるとミランダさん目の色が変わるからちょっと怖いんだよね。


「近いうちに帝都に行くつもりだよ」

「え?なに?もう一回いって?」


 目が金マークになっているミランダさん。

 絶対聞こえているじゃんか。


「近いうちに帝都に行くつもりだ。ただし、一緒には行かない。フィリアが学校に戻る時に一緒に行くつもりなんだ」

 

 一緒に行くとなると、通る街すべてで宣伝を行いそうだ。

 そんな体力と、精神力は俺にはない。

 時間は有り余っているが、精神が持たない気がする。

 

「あら?そうなのね。それは残念。でも帝都では宣伝をしてくれるのでしょう?」


 有無をも言わせぬ言葉づかいで俺に圧をかけてくる。

 お金は人を狂わすと聞いたが、この人も狂っているのだろうか。

 それとも店を経営している人はみんなこんな感じなのか?

 常に売り上げのことを考えているのではないだろうか。


「暇だったらやるね」

「なら、いいわ。どうせ暇でしょ?それに楽しみね。帝都でも制作を急がせないといけないわ」

 

 人を暇人扱いするなよ。

 そして、職人さんの仕事を増やしてしまったようだ。

 ごめん。すべてあなたのところの会長のせいだからね。

 俺は見も知らない人へと謝罪の念をこめて祈る。


「ソラ、またでいいから、商業ギルドに行って、口座確認しておいてね」

「あー、また見とくよ」


 今のところ金は一億以上残っているし、困ってないのでまた見よう。

 

 ミランダさんとも別れ、今日の任務がすべて終了した。


 俺たちは、以前泊っていた幸せ亭に宿をとる。

 時間はお昼を過ぎたころだが、長旅の疲れで、すぐに眠りについた。


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