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第129話 くんくん

「それじゃー、ルイよろしくな。ケガさせたら許さないからな」

「わかってるよ。クロエもいるから安心しろ」

「クロエさんもよろしくお願いします」

「まかせときなさい。ティナちゃんとモコちゃんはうちで預かるわ」


 クロエさんの家、ナイトレイ家の屋敷へと向かい、今日のあれこれを話すことでルイの承諾を勝ち取った。

 まさかのクロエさんは今日休日だったため、ルイとともにティナたちのお守を買って出てくれた。

 休日なのに悪いなーと思いつつも、あの満面の笑みのクロエさんを見ると悪いという気持ちもなくなるよ。今もモコを抱っこして、見送りに来てくれている。


 ちなみにすでにテトは隠密モード。

 ナイトレイ家につく前には影入りし、影世界から俺たちのことを観察しているだろう。

  

 薄暗い灰色の世界からの観察。

 夜中に出会う黒猫は影から人間たちを見つめ、すこし脅かすつもりで人間の前を歩くのかもしれない。

 

 そんな詩人のようなことを思いながら、尾行中のテトの事を想像してみる。

 んー。テトは静かに観察という感じではなく、俺とシロの周りをうろうろし、周りを警戒しているんだろうな。

 そしてプレゼント選びになると、そわそわ楽しそうにシロの話しを聞くのだろう。

 そこには想像上の黒猫ではなく、ただただ弟大好きな黒猫がいるだけだな。


「では、いってきます」

「きゅきゅ」

「いってらっしゃい」

「わふわふ」


 ナイトレイ家を出て、帝都の大通り目指していく。


「きゅっ」


 ん?

 歩き出そうとすると、シロから声がかかる。


「どうした?」

「きゅうきゅう」


 俺の前をふさぎ、歩みを止めているシロ。

 ぴょんぴょんとジャンプし、きゅうきゅうと鳴いている。


「だっこ?」

「きゅうー」

「いいよ。おいでー」


 その声で、俺に飛びつくシロ。

 今は満足げに俺の腕の中に納まっている。大きなしっぽがゆらゆら揺れて少し邪魔だが。 

 俺はふわふわなシロの毛が味わえて幸せです。

 

 どうやら、シロは俺に抱っこして欲しかったみたいだ。

 確かにいつもの移動はモコの上でティナに抱っこされているからな。

 シロの移動手段は抱っこが多いのかもしれない。

 

 今は楽しそうに前足を前に向け。発進とか言っているのだろう。ご機嫌で声を上げている。

 二人きりの時間だしな。シロとはあまり俺との時間を作ってなかったのも事実。

 甘えられるときに盛大に甘やかしてやろう。

 

 うちは甘やかして育てる主義なんです。それで文句があれば俺に言ってこい。その考え、常識を一から変えてやる。

 心新たに新しい人生を歩むのもいいだろう。生まれ変わってニューゲーム。


「きゅうー」

「あれがおいしそうか?」

「きゅいー」

 

 大通りを歩いているともちろんそこの端には様々な屋台がある。

 うちの食いしん坊末っ子がそれを見流すはずがなく、鼻をくんくんさせ、うちの子サーチでおいしいものを探している。


 説明しよう。うちの子サーチとは、人間の倍以上ある嗅覚で、様々なグルメをかぎ分けてきたテトモコシロのみが使用できる探知スキル。新しい食べ物、文化に触れることでそのサーチ範囲は広がっていく。そのサーチはTPO、時、場所、場合関係なく発動するスキルなため、ために困ることもあるぞ。ただし、このうちの子サーチの精度は非常に高く、いまだはずれの屋台を引いたことはない。


 まぁー、もちろんそんなスキルなどない。。ただ、グルメなうちの子たちがすごいだけです。

 今回は団子のようなもので、甘い匂いがするたれで焼かれているものだ。

 日本ではみたらし団子だろうか。形が串ではないため違うのだろうが、味付けなどは似ていそう。


「きゅうきゅう」

「ん?5本?そんなに食べるのか?」

「きゅー」

「あー、テトモコティナの分か」

「きゅいきゅい」


 おいしいものはみんなで食べるのっと。かわいらしい返事が返ってきた。

 いい子に育ってお兄ちゃんは嬉しいぞ。

 でも、さすがによだれを垂らしているシロがあまりにも食べたそうなのでもう一本頼み、俺とシロで半分こ。


「きゅう?」

「シロ味見だよ、あ、じ、み。まだおいしいかわからないだろ?」

「きゅうー」


 ソラ偉いとお褒めの言葉をいただいたが、こういう賢さは別にえらくないんだよ。

 汚い部分はマネしなくていいからね。


 ん?なんだ?俺の右足にもふりと柔らかい感触。


 右足を見るが、そこには何もなく、飛んできたようなものもない。

 疲れているのかな?最近はあまり体を動かしてないから、そんなに疲れていないはずなんだけどな。


 ん?やっぱり、足に物が当たる感触。二度目だからこれは確実なはずなんだけど、やはり足元にはなにもない。


 あー、もしかして。


 俺は影収納から皿を取り出し、シロと半分こした団子をさらに半分にし、その皿に乗せる。

 そしてその皿ごと団子を影入りさせる。


 シロが団子に夢中になっている間にやっているからシロは気づいていないだろう。


 おそらく、いや、確実にテトの仕業だな。二度も足にもふりとした感触があることなんてそうそうない。怪奇現象を疑うよりかは、うちの食いしん坊を疑った方が早い。


 ほら、正解だ。


 俺の足元には表世界に帰ってきた皿。その上に団子はなく、たれの一滴も残っていない。

 皿が戻る時にすこしだけテトの姿を捕えることができた。超高速での影入り。こんなところでそんな超上級テクニックを使わなくてもいいのに。

 それにその速度での影入りは俺にはできそうにないので、今度コツでもおしえてくれませんかね?


 それにしても可愛い弟に気づかせないための措置なんだろうが、無駄にハイスペックなことで。

 愛が溢れているのはいいことだが、やりすぎには注意しないとな。

 好きだからって周りに迷惑かけてもいいということではない。


 ん?俺はどうなんだって?

 なにを言っているんだ?俺の愛情は周りに迷惑かけていないだろ?

 迷惑だと思った人間が何人かいたみたいだが、すでに今は生きていない

 ほら、だから迷惑かけている人は現在進行形ではいないに等しい。

 引く一をしていけばいい簡単な算数のお話し。

 ちなみにルイとかフィリアらへんの人たちは除外だ。身内には迷惑をかけてもいいスタイルなのでな。身内は迷惑かけてなんぼ、助け合いの精神だよ。

 


 その後もシロのサーチは進み、様々な屋台の食べ物をあさっていった。もちろんテトも。


「シロ。そういえばテトモコには何を買うんだ?」

「きゅー。きゅうきゅう」

「え?外いくの?」


 いくのーと門の方へと前足をバタバタさせているシロ。

 まぁーよくわからんが今日は言われるがままにだな。うちのお坊ちゃまのお好きなように。



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