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第126話 世界平和のために

「ティナ行ってくるね」

「いってらっしゃーい」

「にゃー」

「きゅう」

 

 俺は用事があるとだけ告げ、ラキシエール伯爵家を出ていく。

 もちろん、モコは俺の横にピッタリとくっついてきているが。

 俺だけの外出なんかは、この世界ではテトモコがいるかぎりありえない。

 

 まあ、毎日もふもふと一緒というだけで、日本に多数いるマンションでペットを飼えない人たちにすれば、うらやましい物だろう。

 ちなみに横にいるモコにも、今回の用事の内容は教えていない。


 これはトップシークレット。

 誰にも話さず、ごく少数でやり遂げなければならない。重要な任務だ。


「わふわふ」


 ラキシエール伯爵家を出て貴族街を帝都の大通りに向け歩いていると、モコからどこに行くのかを聞かれる。


「まだ、その時ではない」

「……わふ?」

「大丈夫だ。危険なところにいこうというのではない。ただこの望みが叶うならこの世から戦争はなくなるかもしれない」

「……」


 もしもだがな。

 叶うとするならば、全人類、全魔物の争いがなくなるかもしれない。

 そんな希望を今、俺は背中で一身にささえている。


 貴族街を抜け、そのまま大通りを歩いていく。


 いつもなら、屋台の食べ物が食べたいと願ってくるモコだが、俺の雰囲気を感じ取ってか、ぴったりと俺に寄り添い、周りを警戒している。

 

 んー。時折あたるモコのしっぽが気持ちいい。そして少しだけ歩行の邪魔なのだが、それもまたいい。


 大通りを無言で歩き続け、はや十分。


「わふわふ?」

「あー。そろそろいいだろう。俺たちの目的地はベクトル商会だ」

「……わふ?」

「ん?もう一回か?俺たちの目的地はベクトル商会だ」

「わふー」


 モコはなぜか警戒を解き、気が抜けたような声を出す。


「わふわふ?」

「し、静かに。誰かに聞かれるかもしれないだろ」


 モコが新商品でも思いついた?と聞いてくるが、ここで話すわけにはいかないのだよ。

 動揺しすぎて、誰もわからないであろうモコの発言を遮ってしまった。


 ベクトル商会に到着し、開かれている扉から店内に入る。

 どうやら今日は店頭にミランダさんはいないらしい。


「すみません。ミランダさんはいますか?」

「えっと。僕君?ミランダさんっていうのは会長のことかな?会長は上にいるんだけど、面会予約しているのかな?」


 あー、忘れかけているが、あの人は大手商会の会長。普通に会いに来たといっても、すぐには会えるような人ではないんだったな。

 

 く、ここは予約だけにしておくか。残念ながら今回のミッションは失敗。無念。


「あら、ソラ君じゃない。どうしたの?会長に会いに来たのかしら?この前の部屋で待っていたら、すぐに会長がきてくれるわよ」


 明日の面会を予約し帰ろうと思っていたが。

 以前、広報活動の際、見かけたことがある職員さんから声がかかる。


「ミミさん?今日は会長は忙しいから、急な面会は断るようにと伺っていますが」

「あー、あなたはソラ君に会ったことはなかったわね。この子は天使の楽園のソラ君。武闘大会優勝者であり、従魔パーカーの生みの親。会長の隠し子ともいわれているわ。だからソラ君がきたら休憩室に案内しておくの」

「なぁ、申し訳ありません。私の把握不足です」


 いやいや、ちょっと待て。

 そんなに俺に頭を下げなくてもいいし、俺に敬意を払う必要もないけど、今はそんなことどうでもいい。

 なんだ。だれがいつミランダさんの隠し子になったんだ?

 そんな素振りもないし、どう見たって俺がミランダさんの子供なわけないだろ。


 そもそもミランダさんはそんな年齢では……。いや。まてよ。ミランダさんは何歳なんだ?そういえば年齢を聞いたことなんかないな。

 美人でごりごりのキャリアウーマン。赤髪で綺麗な社長。

 こういう人は謎に外見が若い可能性がある。

 

 んー。ミランダさんの年齢が気になるが、俺に聞く勇気、そして命の残機は残っていない。

 一回でも死に戻りができるなら聞いてみてもいいが、その時の帝都の状況はわからないだろう。

 女性に年齢を聞くのはそれほど危険。生前おばあちゃんが言ってた。

 影山家の唯一といっていいほどの家訓だ。


「ぜんぜん気にしないでくださいね。予約してなかったのは事実ですから」


 頭を下げている職員さんに一言つげ、ミミさんと呼ばれた女性の後をついて行く。

 そしてそのまま俺とモコは以前、まとわりつく女性たちから逃げるために使用した部屋へと案内される。

 もう、俺がここで何をしていようと職員さんは気にならないらしく、お茶とお菓子を置いて仕事へ戻っていった。


 ビック待遇なのか、隠し子といういじりがつづいているのか。

 まあ、気を使わないのでいいのでこちらも助かる。

 ミランダさんが来るまでここで、モコと遊んでおこう。

 モコもじゃれる気満々のようで、すでにお菓子を食べ終え、俺の膝の上に寝転んでいる。

 いつもお兄ちゃんありがとうな。俺とふたりきりの時ぐらい、弟になってもいいぞ。


「ソラ―またせたわね。っと、仲いいわね」


 モコとじゃれあい、ソファーの上で寝転んでいると、ミランダさんが部屋へと入ってくる。

 

「仲良しだよー。今時間空いているの?」

「ソラからの訪問だからね。つくってきたわよ」

「なるほど。大丈夫?」

「もちろん。後の人らは待たせても大丈夫な人達。そこまでつながりもないしね」


 さらっと、会長の顔を見せるミランダさん。

 商業の事になると結構冷たそうだな。まあ、社長という役職は優しさだけではやっていけないのだろう。


「それで急にどうしたの?」

「あ、そうだ。これはミランダさんにしか相談できないことなんだ」


 ソファーに座りなおし、ミランダさんの目を見つめる。

 

 息を整え、頭の中の文章を整理、そして閉ざされた口を開き音を発していく。


「俺はティナに翼をさずけたい」


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