オルタンスの過去話
私は、魔術師として冒険者学校を卒業した後、一年程冒険者を行ってから、剣士として再度入学したのです。元々剣士になりたかったのですが、両親が剣士になる事に反対していたので、話し合いの末、一旦魔導士になるという条件で認めてくれたのです。
そして、剣士課程の卒業寸前に、恩師から魔法剣士を勧められたのです。最初は純粋な剣士になりたかったのですが、当時は今以上に男女不平等でしたし、女性剣士の募集がほぼありませんでしたからね。ただ、魔法剣士はなり手が少なく、男女問わず募集がありました。恩師の推薦もあり、私は五年契約で魔法剣士になりました。自分で言うのも難ですが、新聞でも活躍が取り上げられたり、未開のダンジョンを何度も攻略したりと、実績は相当にあったんですよ。ただ、後から知ったのですが、収入は女性冒険者の平均を上回っていたものの、同キャリアの男性剣士よりも低く抑えられていたのです。そして、先ほど話した通り、三十歳になった時に、解約になったのです。最初は五年契約で、次は何故か一年契約になったのもあり、表面上は雇い止めなんですけどね。その時、同じグループに居る回復術師の女の子、ブレモン・フィケさんも同じような理由で雇い止めになったんです。私だけだったら、転職すればいいくらいには思ってたのですが…。ある日、ブレモンさんにカフェに呼び出されたのです。
「オルタンスさん、私、このまま黙ってるのは良くないと思ったんです!そこで相談したいんですが」
「相談?」
「そうです、労働組合を作ろうと思ってます。そこに参加してくれませんか!?」
私は労働組合について、当時何も知りませんでした。建物の工事現場に行くと、たまにおどろおどろしい文字で「●●は交渉に応じよ!」とか、「三パーセント賃上げは当たり前」とか書かれているのを見る事と、噂で反政府の過激派と繋がってる危険団体と聞くくらいで。だから、正直に、
「私、何も知らないわよ、誘われても」
と伝えたんです。ブレモンさんはそう言われると、私の考えを見透かしたかのように、本を取り出して、
「そう言うと思いまして、オルタンスさん、労働組合について説明します!」
と説明を始めました。そこで、組合は二人いればできること、あくまで労働問題向上の為に行う事、他の国では労働組合によって労働条件が改善した事等を色々説明されました。それもあって、いつでも自由に辞めて良い事を確認した後、加入したのです。
とはいっても、最初は何をすればよいかもわからなかったので、ブレモンさんに言われるがままでした。他の組合の団体交渉に参加させて頂いたり、何冊も本を読んだり、今までやった事のない、内容証明で書類を送ったりと。慣れない作業ばかりだし、やる事も多いので、何度もくじけそうになりました。だけど、ブレモンさんが私以上に頑張ってるので、やめようとは思わなかったんですよ。
そういえば、組合の名前言ってませんでしたね。「冒険者総合労働組合」です。今あなたがいる組合です。
「あ、そうだったんですね、凄い!」
ヨハンナは少し大きな声で驚いた。
「ええ、今は引退して、冒険者総合労働組合支援会ですけどね。裏から支える為として」
オルタンスはそう言い、封筒に糊付けをした。