団体交渉が終わり…
団体交渉が人段落ついた後のヨハンナ視点での話。
そして、団体交渉から数日。
完全に満足とは言えないものの、一定の金銭的解決で和解となった。満足と云えないのは、これ以上争うのは労力に見合わない事を説明されたから。私は、職業安定所に登録し、求職活動を行い始めた。冒険者、事務員、ギルド相談員等、面接の予定はいくつか決まったが、それ以外にやる事は無い。賃金の差額支払いを含めた解決金のお陰で、急いで働かなくてもどうにかなる状況ではあったから、図書館に行ったり、彼や友達が休みの日には遊びに行くこともあったけど、それもたまにしかない。
ある日、組合の恩返しも込めて、月に一回行っている組合員に送付する広報誌やチラシの封入作業を手伝っていた。会話が減って物寂しい気分もあったし、やる事がなさすぎると、人間は堕落していくような気がしたのもあった。
「先生、来月の選挙、応援に行くのですか?」
「まだ考えてますね。チョ先生とも相談してみます」
団体交渉の時は同世代の人が多かったけど、今日は年老いた人が多い。隣で話を聞いてみると、元弁護士だったり、元研究者の人のよう。そして、どこどなく穏やかな感じの人が多い。
「あなたは、どうしてこの組合に入ったのですか?」
そのうちの、母親より年上だろう女性が、私に話しかけてきた。
「雇い止めです。短い有期契約で何度も何度も更新して来たのですが、法に定める無期転換前に辞めさせられました」
短期間で覚えた些細な付け焼刃の知識だけど、それを口にできた瞬間、前の自分とは違っている事を実感した。単純だけど、知るって大事。
「そうなのね、昔は正規が当たり前だったのですけどね、冒険者も。私も昔は魔法剣士だったんですけどね」
「魔法剣士!?」
私はつい声に出して驚いてしまった。今以上に数十年前は女性の剣士はほとんどいなかった筈だし、さらに魔法剣士となると、魔術師と剣士の両方を極める必要があるわけで、性別関係なく非常に珍しいし。
「ただ、三十歳になった時に、『年老いて華がなくなった』って事で解雇されたんです。交渉の時に、『冒険者はただモンスターを討伐するのではなく、憧れであるべき』『特に女性は若くて綺麗で鮮度のいいうちに入れ替える必要がある』とまで言って。不服だったから、仲間たちとこの組合を立ち上げたんです」
「そうなんですか!?」
私は声に出して、しかも立ち上がって驚いた。創設者がこんなに近くにいたなんて。
「組合を作られた、素人ができるものなんですか?作るのに大金かかったり」
私がそう聞くと、女性は、
「いえいえ、発起人含めて二人いればできますよ。組織の規約とか、それらを承認する会議は必要ですけど、それも手本通りやっただけですし」
と返した。
「まあ、作った後は大変でしたけどね。団体交渉とかも、他の組合の人達のを参考にしたり、繋がりつくって労働関係に強い弁護士とも相談したりして、なんとかやってきました。幸い、労働環境に疑問持つ冒険者の人が沢山いて、頼りある後継者も出てきて、今も続いてる感じです」
「そして、私が最初の顧問弁護士です」
斜め向かいの年老いた男性が穏やかにこっちに割って入ってきた。だけど、もう驚かなかった。事前の会話で何となく察してたし。
「この組合、業種別で組織からも独立した団体でしたし、何より勉強会や団交、裁判の練習等、真面目に活動に取り組んでたから、ずっと勝ち続けてますし、続いてるんです。あなたは、そういう意味では良い選択をしたと思いますよ」
そういえば、労働組合って、聞いた話だと会社や事務所のような組織毎が多いって聞いたような。そして、上層部に取り入れられ、都合のいいように動くとか。とはいえ、今気になるのは…。
「魔法剣士の話、もう少し聞かせてもらってもいいですか?」
封入物の糊付けをしながら、私は聞いた。
「いいですよ」
私は気づかれないようにガッツポーズをした。