団体交渉が始まりました2
忙しく、更新がなかなかできず申し訳ありませんでした。
相変わらずのスローペースですが、また再開します。
「では、次の議題です(2)法に則った無期雇用契約への転換は、(1)の回答次第ですが、組合としては元来それとセットでやらないといけないという立場です。ということで、(3)その他、必要に応じたものについてですが、ラッパルトさんから聞いた話だと、彼女の賃金はずっと日給十ゴールドでした。但し、一昨年施行された、同一価値労働同一賃金の法と、それに関する省令と照らし合わせると、二年以上の魔術師は最低十二ゴールドを支払わないといけません。これは不当であり、十一カ月分の差額賃金と、遅滞による年利14.6パーセントの割増を要求します」
テオドールは言った。ヨハンナはその法を知らず、改めて自分が法を知らない事を感じ、内心恥じた。シャルルとウジェーヌは小声で打ち合わせをし、ウジェーヌは
「所定の額は払います」
とあっさりと言った。流石に法を破るのはまずいのだろうと判断したなと、ヨハンナは直感していた。
「では、その計算は公表をお願いします。こちらの計算と照らし合わせるので。ただ、これは魔術師だけのもので、鑑定士分は入っておりません。正式な基準はありませんが、統計によると、レベル5前後の鑑定士と兼業の場合は、専業の場合と比べて凡そ二割増しです。魔術師も例外ではなく、二年程度の専業魔術師は週十二ゴールドが平均ですが、兼業だと約十五となります。法的には前の程度が最低基準ですが、組合としては、二割増し弱の十四ゴールドまでは上げるべきだと考えます」
「ただ、法的に問題がなければ、そこまで従う必要はないのでは」
テオドールの発言にウジェーヌは言った。
「いえ、鑑定士として仕事をしたなら当然です」
「鑑定士としては、ほとんど何もしてない…筈です」
「嘘です!」
ヨハンナは耐えられず、大声で言った。
「未知の相手の場合は、戦闘前に必ず鑑定をしていました!だからこそ、現在の鑑定士レベルは卒業よりも上がって14です!ステータスカードにもある通りです!実戦でしか得られない、『特技調査』スキルもあります」
そして、手持ちをカバンからカードを取り出し、見せた。テオドールはすかさず、
「嘘をついた。もしそれが本当であれば、これは組合に対しての愚弄であり、それ以前に誠実交渉義務違反です」
と言った。
「あれ…」
ウジェーヌはそう言うと、そっぽを向いた。そして、少し考え、シャルルと相談した後、
「だけど、レベルは自主鍛錬で上げる事できますよね。それに、ほとんどと言ったけど、少しはしてるのは事実です。ただ、それは実践に役立ったレベルとは云えません」
と返した。
「何を言ってるんですか、実践に役立たせるように指揮するのはリーダーの役目でしょう!」
ロロは大声で言った。その迫力に、敵であるウジェーヌやシャルルだけでなく、ヨハンナやヤマダも驚いた。
「その通りです。リーダーの怠慢を棚に上げないで下さい」
テオドールは例の抑揚ない調子で言った。
「その話だと、鑑定士としての仕事もしたと見なさざるを得ません。よって、さっきの通り、十四ゴールドまでは上げる必要があると要求します」
ウジェーヌとシャルルは小声で打ち合わせをし、シャルルが
「承知しました。ただ、ここでは即答できませんので、持ち帰らせて頂き、検討しますが宜しいでしょうか?」
と返した。
「はい、では、後ほど提示の既定の日までにご回答をお願いします」
「承知しました」
話は淡々と進んで言ったが、ヨハンナは先ほどあった、ロロの大声に感動していた。ほぼ面識のない自分の為に、ここまで怒りを示してくれる事が嬉しかった。