団体交渉中に思う
私が冒険者学校を卒業する時代は、冒険者過多の時代だった。
両親もそれを危惧し、事務系公務員の仕事を勧める事もあったが、元々手本通りに作業をするのは苦手で、事務員は避けたかった。
冒険者は、剣士、格闘家、回復術師、魔術師、薬師、鑑定士、踊り子が居る。男は剣士か格闘家、女は回復術師か踊り子が花形であり、昔はそれから漏れた人たちは奇異の目で見られた。とはいえ、私は、前衛職に自信がなかったので、男女問わず多い魔術師のコースを選んだ。
しかし、冒険者過多の時代。魔術師だけでは職に就けないと思い、鑑定士の勉強も同時に行っていた。努力の甲斐あって、卒業の時は「魔術師レベル10、鑑定士レベル5」と、私の卒業年で1ジョブでレベル8程度が平均だったことを考えると、そこそこのレベルに仕上がっていた。
とはいえ、過去と違い、冒険者グループの九割は期間雇用しかなく、残りの一割もリーダー候補の剣士がほとんどであった。私も、例に漏れず、魔術師として二カ月の期間契約を交わした。
魔術師として、初めての仕事は、三グループ合同で、隣のスーニ村の盗賊ゴブリン軍団の退治だった。とはいえ、私が鑑定したところ、ゴブリンは私の手持ち魔法で一掃できる程に弱かった為、手持ちでは一番強い中程度の雷の魔法で一掃した。村の人は喜んでくれたけど、リーダーのヴジェーヌからは
「こういう時は嘘でも苦戦したフリをしろ、余計な仕事が増えるぞ!」
と怒られたっけ。私はそれに従い、戦闘については目立たないように、但し云われたことは徹底的に行った。ヴジェーヌは、ある酒の席で
「ヨハンナは従順だから良いよな~使いやすくて」
と言われたっけ。その時は何も感じなかったけど…今思うとムカついてきた…。仕事とはいえ、何であんなやつに従ってきたんだ…。都合良く使って、無期転換したくないからって捨てやがって…人を使い捨てにしやがって!
「悪いけど、八月いっぱいで契約満了なんだ、ご苦労さん」
そのせいで、数カ月前のあのムカつく顔まで思い出した。私は「私のどこがいけなかったんですか!」と大声で言ったけど、「契約満了」の一点張りだったし、最後には「悔しかったら無期雇用になれば良いだろ」って捨てセリフまで吐いた。
眼前の団体交渉で、そんなことを思い出しながら怒りの感情が湧いてきていた。それもあり、テオドールの淡々と、しかし確実に相手を追い詰める交渉を見て、思わず
「魔法の詠唱は高度な魔法ほど詠唱の時間はかかります!腕と関係ありません!」
という怒りの言葉が出てしまった。何気ない一言だったが、慣れない団体交渉で何も言えないと思った私は、驚いていた。合間に、ロロさんが小声で、
「ヨハンナさん、偉い!」
と褒めてくれて、少し照れ臭かったけど嬉しかったな。