マルセルと酒場に行きました
今更ながらの言い訳ですが、世界観は実際のヨーロッパとも、正統ファンタジーともかけ離れているので、生暖かい目で見て下さい。
茹でアスパラとポテトフライをつまみに、二人はテラス席で飲んでいた。最初は、互いの遠慮もあり、他愛もない話をしていた。
「最弱冒険者列伝って本あるんだけど知ってる?」
「えー、どんなの?」
「例えば、モンスター退治する際、実は魔法使えないから賄賂で退治されたフリしてくれって言ったら、モンスターに言葉通じず一度自分が倒されたんだけど、再チャレンジの時にヤクザに賄賂で退治を頼んで、それはうまく倒せたから、後払いの報酬をケチったら、今度はヤクザに退治されそうになった話とか」
「あ、もしかしてそれ前宰相してた…」
「おっと、そこまで。まあ、図書館にあるだろうから、良かったら」
そう言い、マルセルは果実酒を飲み干した。それを見たヨハンナは追加の果実酒を二人分頼んだ。
「しかしラッパルトさん飲むね、テオ君なんて一口飲んで倒れたのに」
「冒険者だと飲まされる事も多いからね、昔は一気強要とかあったし」
「あー、そうだね。アルコール・ハラスメントって言葉できたくらいだし。今は厳しくなってあまりないみたいだけど、古い組織だとまだまだあるみたい」
「それ、組合の団交とかで話したりするの?」
「うちは幸い、その話は今のところないかな。前任者とかだとあったらしいけど」
適度な果実酒は気分を高揚させる。飲みすぎると正気を失い、時に意識すら失うものではあるが、今のところ二人はそこまでは飲んでいない。その為、ヨハンナは今こそ聞くべきだと判断し、
「グールさん、分かったらでいいんだけど…ブレモン・フィケさんって知ってる?昔委員長だった」
と、マルセルに小さく聞いた。
「ええ。ゾラさんと一緒に、作ったばかりに居た人だよね。組合の私が入った頃には居なかったから伝聞だけど…」
マルセルは一呼吸置いて、話し始めた。
「昔、アルル財閥の経営する冒険者団体と闘ってたときがあるんだけどね、酒場で財閥のそこそこのお偉いさんと会って、『あなたの所の副委員長ゾラさん、本気で戦ってると思いますか?彼女の武器はうちの製品だし、宣伝に協力してもらった事で作った特注品なんですよ。女性の魔法剣士は珍しいですからね』と唆されたんですよ。フィケさんは『昔そうだった事あるとは知ってます。でも、今もそうだという証拠はあるんですか、彼女はとっくにやめたと言ってましたよ』と強気で返したみたいだけど、今もその宣伝をしてるということで、その証明書らしきものを出して、見せたみたい。その後も、ある事ない事も吹き込まれて、フィケさんは裏切られたと感じたみたいで、委員長をやめるという書留だけ送って来てから、来なくなったの。実際、その特注品を使ってたのは事実みたいだけど、宣伝への協力は組合作った地点でやってなかったし、特注品を返しても良いとも思ってたみたいだけど…」
「そうなんだ」
「ただ、私はそれだけじゃない気がしてて…。アルル財閥はフィケさんを懐柔して自分の陣営に入れただけじゃなく、もっとえげつない分断工作を仕掛けたんじゃないかって思ってて。ここからは私の憶測、というか妄想だから酔っ払いの戯言ってことで、話半分で聞いて欲しいんだけど」
マルセルはそう言いながらも、ヨハンナの目をまっすぐに見た。街灯りと蠟燭だけの薄暗いテラスでも、互いの顔はしっかり見えていた。