団体交渉が終わり…3
帰宅後、ヨハンナはリンゴを齧りながら、新聞の求人情報欄を見ていた。失業保険はいつまでも続かないし、保険収入だけだと生活は苦しい。魔術師の募集も相変わらずあったが、賃金は低い。たまにある高賃金の求人も、よく見ると金額以外は小さな文字で「宝が見つかったら〇〇ゴールドも可能」とあったり、回復兼任のものだったりと、条件には合わない。そして、その中に魔法剣士という求人もあり、提示されている賃金はさらに高かった。彼女は、魔法剣士について考えていたら、失業保険の説明会で云われた、失業者を対象とした職業訓練校というのがあるという事を思い出した。
「そういえば、職業訓練校で剣士あったっけ」
声にならない独り言を言い、職安で貰った資料を見た。職業訓練の資料には、訓練を受けてる間は失業保険は支払われ続けるとあり、彼女はより興味を持った。保険を受け取れ、就業に有利な資格等もとれる。いたわり尽くせりに思えるが、罠があるかもしれないと思い、相談の為にヴィレミーナの家に行った。
ヨハンナとヴィレミーナは、喫茶店のテラスで紅茶を飲んでいた。
「訓練校ね、まあ受験とか、毎日通わないといけないとかあるけど、罠みたいのはないかな」
ヴィレミーナはそう言い、紅茶をすすった。
「ヨハンナは失業保険貰ってるんだっけ?三分の一以上残日数があったら、職業訓練終了まで貰えるし、もしダメだった場合でも、他の収入がなければ職業訓練受講手当が月二十ゴールド支払われるから、お金はそこまで心配しなくていいと思うよ。ただ、職安に希望するコースがあるかは見た方がいいかもしれない」
「なるほどね。帰り見に行ってくる」
紅茶はまだ熱かったが、ヨハンナは熱さを気にせずに紅茶を飲み干した。早めに職安に行きたいという思いが強まっていた。ヴィレミーナはそれを察し、
「資料持ってくるまで待つよ。今日私も予定ないし」
と言った。
「テンキュ、じゃ、行ってくる」
ヨハンナはそう言い、職安に向かった。そして、訓練に関する資料を持ち、十数分程で戻ってきた。
「ダメ、剣士なかった」
「残念。だけど色々持ってきてるじゃん」
「ちょっと考えたいからね」
ヨハンナの手には、工業系の訓練の資料が数冊あった。それを机に並べた。
「どうしようかな、事務は苦手だから、工業用の図面作成とかデザイナーとか興味あるんだけど。冒険者は上級職じゃなければ三十越したら難しいって云われるし」
「どうなんだろうね、前はそう言われたけど、最近は魔導士や回復術師なら三十越してる人もざらにいる気はするけど」
色々話をしながら考えたが、ヨハンナは決められなかった。どの訓練にするかの迷いもあったが、組合の活動にもまだまだ興味があったから。訓練を開始すると丸一日拘束される、それなら、今の失業保険給付期間を無駄にしたくはない。三分の一となる期間ギリギリがいつかを手帳を見て確認し、
「じっくり決めることにしよ」
と言い、すっかり冷めた二杯目の紅茶を飲み干した。
職業訓練については、実際の制度に基づいて書いています。