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冒険者、労働組合に入る  作者: 古明地クロエ
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クビになったので友達に相談しました

世界は良くあるファンタジーの世界。

しかし、ここでは、2022年現在の日本の抱える労働問題と同じような問題を抱えていた。

つまり、立場の低い雇われ人は不当に扱われ…。

 ヨハンナは、街へ出た。そして、角にある喫茶店に入った。

 この日は曇り空。そして、ヨハンナの気持ちは、曇り空を通り越して雷雨であった。彼女は、怒りと悲しみでいっぱいになっていた。友人におごるからと誘われた喫茶店の窓際の席に腰かけた瞬間、その友人が「やっほー」と陽気に言いながらやってきた。

「おー、ヨハンナ、元気だった?」

「元気も何も、昨日会ったばかりじゃない」

「あーそうだった」

「全部だと多いからケーキは半分こでいい?あんたもそんな食べないでしょ?」

「カフェのケーキ美味しいけど多いもんね、いいよ」

 ヨハンナがそう答えると、ヴィレミーナは紅茶二つと本日のおすすめケーキ一つを注文した。


「さて、さっそく本題に入るけど、こうなったら冒険者用の労働組合使うのがいいかもね」

「冒険者用の労働組合?」

「ええ、昨今、ちょっとしたことで冒険者グループを追い出されたり、取り分を下げられたり、ケガをしても何もしてもらえないっていうのが山ほどあるからね。あんたも相談してみたら?」

 ヨハンナは先日、冒険者グループをクビになった。理由は明らかにされていない。

 しかし、法律で有期雇用契約は三年以上雇ったら無期雇用契約にしないといけないというものがあり、ヨハンナは既に通算二年十一カ月雇われていた。王都の雇われ冒険者では、三年を超える前に契約を切られるというケースが多発しており、ヨハンナも例にもれずそれの犠牲となっていた。


「でも、それは労働基準監督署がやってくれるんじゃないの?」

 ヨハンナはそう言い、ヴィレミーナの顔を見た。

「んー、それはあからさまな法律違反だけ。それに、最近その相談件数も多くて、人が足りてないし」

「そう、でも不安だな~」

「不安?」 

「そう、王家に反対する運動に参加させられたり、選挙で特定の人に入れるよう強要されたりしそうで」

「まあ、それは新聞とか噂ではあるけど…、でも法律でデモ参加強要や特定の人に入れるような強要はないから大丈夫だよ。それに、仕事みたいにお金貰ってるわけじゃないし、いざという時はやめればいいし。組合費払わなければ自動的にやめることになるし」

「そんなもん?」

「保険だと思えば分かりやすいんじゃない?」

「へぇ。しかしあんた、良く知ってるね」 

「私も前に行ったもんね。それに、今してる仕事とも関わってるし」

 ヴィレミーナはそう言い、目の前のケーキを小さく切った。そして、ヨハンナに一口分差し出した。ヨハンナは反射的に口を開け、それを入れた。

「ここ甘さ控えめでいいね」

「でしょー?」

 そう言い、二人はふふっと笑った。


 ヨハンナは、ヴィレミーナと別れた後、近くの雑貨屋で電話を借り、貰った番号にかけた。手帳に明後日の午後四時、教会裏の建物の二階と記し、受話器を置いた。ヨハンナは、そのまま役所勤めのイッペイの家へ行き、酒場に連れて行った。酒の力で、溜まっていた愚痴を吐き出そうとするためである。

「大体、鑑定師でもあり、魔術師でもあるこの私をクビにするなんて、見る目ないにも程あるでしょうよ、ねえイッペイ?」

「まあまあ、ヨハンナならまたすぐ良いの見つかるよ」

 イッペイは「自分と結婚して、家庭に入るのはどうだ」と言いそうになったが、主婦業を嫌うヨハンナの手前、ぐっと飲み込んだ。この世界においても、昨今では、女性だけの冒険者グループが出来て成果を残すような例も出てきて、前のようなあからさまな男女差別は減った。しかし、今も「男は仕事、女は家庭」という事を是とする向きは強い。


 春の夜。足元もおぼつかないヨハンナは、イッペイに支えられながら自宅のベッドシットへ向かって行った。酔いは回っていたが、ヨハンナの気分は明るい。街路沿いの月灯りに照らされた色とりどりの花は、自分を祝福しているように彼女には感じていた。明後日の相談で、問題は解決すると根拠なく確信していた。彼女は家に入った後、靴下のみを脱ぎ、仰向けにベッドに倒れこんだ。

 しかし翌朝には、晴れた気分は抜け、二日酔いの頭痛と共に、「うまくいかないんじゃないか」という不安に襲われていた。重い体を無理やり動かし、老人だらけの朝の公衆浴場に向かい、風呂から上がると逃げるように自宅へ行った。鬱々としながらも、時間だけはいたずらに過ぎていき、月夜を経て、そのまま相談日の朝になった。

労働組合法

第二条 この法律で「労働組合」とは、労働者が主体となつて自主的に労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ることを主たる目的として組織する団体又はその連合団体をいう。但し、左の各号の一に該当するものは、この限りでない。

一 役員、雇入解雇昇進又は異動に関して直接の権限を持つ監督的地位にある労働者、使用者の労働関係についての計画と方針とに関する機密の事項に接し、そのためにその職務上の義務と責任とが当該労働組合の組合員としての誠意と責任とに直接にてい触する監督的地位にある労働者その他使用者の利益を代表する者の参加を許すもの

二 団体の運営のための経費の支出につき使用者の経理上の援助を受けるもの。但し、労働者が労働時間中に時間又は賃金を失うことなく使用者と協議し、又は交渉することを使用者が許すことを妨げるものではなく、且つ、厚生資金又は経済上の不幸若しくは災厄を防止し、若しくは救済するための支出に実際に用いられる福利その他の基金に対する使用者の寄附及び最小限の広さの事務所の供与を除くものとする。

三 共済事業その他福利事業のみを目的とするもの

四 主として政治運動又は社会運動を目的とするもの

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