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第2話 受注予約生産で

「薄ぼんやりと知っている天井だ……」

 昭吾は未だ覚醒しきらない意識を奮い立たせるように強く瞬きを繰り返した。

 グッと身体を伸ばそうと力を込めた瞬間――

「まだそんなこと言ってんのか、お前」

 脱力。

 起きかけていた身体は重力に従い鈍い音と共にベッドに着地した。

 マユどころか顔の全パーツを下げつつ諦めの表情で声の方向に顔を向ける。

 昭吾の予想通り、良く見知った顔が口元にだけいやに明るい笑みをのせてこちらを見ていた。

 もう一度気絶したら何か変わらないかな……。

 最後に顔を合わせたときよりもずいぶんと若返ってはいたが、窓から差し込む日の光にきらめく銀の髪と、無駄に美少女な顔に鎮座するガラス玉のように透き通った瞳は、見間違えようも忘れようもなかった。地球で一緒に死ぬまで過ごした大事な友の姿だった。

 ため息を一つ。覚悟を決め友の方へ向き直る。

「……そっちこそ何でいるんだよ。特にお前が、勇者だって? なあ、魔王陛下(・・・・)?」

 あきれたように昭吾が言った。

 それに対して友――この異世界での魔王(・・)、クラインは吹っ切れたように笑って言う。

「はは。それな!」

「それな! じゃないんだよ……夢なら早く覚めてくんないかなぁ」

「そう言ってる時点であきらめが見えるぞ? ユ・ウ・シャ・サ・マ?」

「おちょくってんのか」

「もちろん」

 軽い掛け合いに、えも言われぬ懐かしさのような心地が胸に広がる、が同時に少しずつ、すこしずつ現実感が身体のバイブレーション機能をフル活用させながら昭吾に押し寄せた。

 そう。昭吾は確かに死んだ。異世界で勇者なんかしちゃって世界を救って、日本に帰って、土産話を親友にしようとしたら倒した魔王本人だったことに気がついてさんざんビビり散らかした挙げ句の果てに死ぬまで友人として生きて、なにより――今、目の前にいる魔王は地球で俺より先に死んだはずだ。

「で、なんで?」

 おそらく自分よりは現状を把握しているであろうックラインに昭吾が声をかける。

「……馬鹿だ馬鹿だとは思っていたが本当に忘れたのか? 昔説明したろうが。忘れるなと言ったろうに。ほれほれ『思い出せ』」

 突然だった。

 一切視界は変わっていない。

 なのに急にまぶしいものを当てられたかのように瞳孔が開き、まぶたがけいれんする。

 身体が動かない。

 懐かしくも二度と体験したくなかったこの感覚は――。

「はっ? あ、っが、お前、いきなり魔術かける馬鹿が」

 いるか、という言葉を放ちきる前に俺の意識はまた暗転した。

 そしてその苦しさから昭吾は思い至った。

 ――ああ。玉座の間でいらんこと叫んだ俺のこと、気絶させやがったな、こいつ。と。


 遠い、遠い過去の記憶。

「このボクが良いニュースと悪いニュース両方持ってきてやったぞ! さてさてどっちから聞きたい?」

 夏休みも明けた高校三年の九月末、唐突に、妙に明るく振る舞うクラインが自宅へとやってきて話し始めた。

 規則によって黒く染められた髪はそれでもなお夏の日差しに透き通るように輝いていて――。

 ――そうだ。いつもなら連絡してから来るはずのこいつが急に訪ねてきて不気味に感じたんだ、たしか。

 昭吾はそう思い返す。

「良いニュースからで」

「好物は先に食べるタイプよな、お前……まぁいいや。良いニュースね。良いニュースとしては」

 大仰な動きで両腕を広げクラインは宣言する世に高らかに吠えた。

「寿命は人並みっぽいぞ! 僕ら」

 ぱんぱかぱーん、と軽いノリで一人拍手をするクライン。

 美少女感が台無しである。

 それを冷めた目で昭吾が見つめる。

 ――しかし。

「よかったな」

「――ああ。とても」

 噛みしめるように二人でつぶやく。

 向こうの世界では、魔力の量によって寿命の長さが分かたれていた。多ければ長い寿命を、少なければ短い寿命を。

 こうして地球に帰ってきたは良いものの、一度身体に目覚めた昭吾の魔力は消えておらず、地球に生まれかわりながらにして魔力を持っていたクラインの魔力も、また莫大な量だった。

 だから二人は心配していたのだ。いつ死ぬことになるのかを。

 パンッ! とクラインが手を打ち鳴らす。

 良いニュースを聞けば、次に残されているのは悪いニュースだ。

 昭吾は覚悟を決め、いつの間にか下を向いていた顔を持ち上げクラインの目を見て言った。

「頼む」

「おっけー。じゃ、悪いニュースね」

 目を合わせたままクラインは告げる。

「魔力というものが存在しえないと言ってもいいこの世界で、死んで魂だけになった場合、僕らに何が起きるかわからない」

 耳の奥からごうごうと血の流れる音がする。

 いつからか昭吾の手には汗がにじんでいた。

「しかもこの問題への答えは、魔力の核たる魂だけになったそのときにしか、どう頑張ってもわからないんだ」

 だから死ぬときにはあらゆる覚悟を決めて死んでくれ。



 ああ、そうだな、思い出したよ。たしかに言ってた。

 でもな。

「忘れるなとは言ってないじゃねぇか!!」

 とんでもない頭痛と共に昭吾の意識が一気に覚醒する。

 ウイスキーと日本酒をチャンポンしつつがぶ飲みした翌日よりも酷い。

 目を開けた先では、なんともいやらしい笑みを浮かべたクラインがそれは楽しそうに昭吾を見つめていた。

 ――それに対抗するように、軽薄な笑みを顔に浮かべて昭吾は笑う。

「久々の魔術は楽しいか?? え? マオウサマ?」

「――ああ! もちろんだともさ? ユウシャサマ!」


 かくしてここから二人は歩み始める。

 地続きかつ別の運命を。

 きっとお前がいるならなんとかなると、そう言い合って笑い合いながら。


「そういえばお前今回男? 女? というか性別ある?」

「ボク……? っふふ、ないしょー!」



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