3日目(1)
森の中、私は走る。天候は最悪、大粒の雨が吹き荒れる暴風に絡めとられ鋭角に降り注ぐ。緑葉の傘はまるで機能していない。何かに追われている気がする。時間間隔がない、いつまで走ればいいんだ。途中、眼のふちに光を捉えた。光の正体は太陽か?一部、雲が消え青空が露出している。
「誰か、いるのか」
光の中に人影をみた。それはゆっくりと降りてくる。見知った顔にも見えるがどうもぴんと来ない。そのうち、思考もまとまらないまま、再び走り出す。
手頃な岩場の洞穴を見つけ、中に駆け込み、腰を下ろす。
「休憩か?」
振り返ると、そこにはもう一人の私がいた。コートに身を包み、その佇まいは、三十代に達していると思われる。全く雨に濡れていないのはここでの疑問点にはならなかった。
「気に病むな。まだ、やりようがある。」
私は、無言で耳を傾ける。
「今までの行動でダメなら改善するしかない。物事は多方面から見通せ、一つの事ばかり信じすぎるな、自分においてもだ。」
気が付くと、部屋に横たわっていた。夢を見るなんていつぶりだろう、、それもこんなにはっきり覚えている。
「って、もはやどれが夢だかわからないな」
ただの、旅行に来ていたはずなのに、2日と待たず大きなトラブルに見舞われた。もはやごまかしの利く範囲ではない。5人で成し遂げると決めたこの旅行はすでに失敗している。ただ、諦めるわけにはいかない。
〔すでに不合格だとわかっていても投げ出してはならない。〕
これは、父の教えだった。もはや、満足のいく結果が得られないと知るや否や、早々に切り捨て次に進み、切り替えの鬼とまで言われた私に対して、父は一度も肯定の意を示さなかった。周囲から称えられるにつれ、何事においても切り替えが早いことを善しとし、エスカレートしていった。
少し、父の言っていた意味が分かったような気がする。物事には投げ出してはいけないこともある、なんてことは知っているし、そんな基本的なことは全て合格点を出してきた。今まで自身の尻拭いをした経験がない。そのつけが、いま来た。絶対に投げ出してはいけないこと、、私は初めて自分の失敗に向き合うことになる。
覚悟を決めた瞬間、長い間かかっていた靄が晴れる。それと同時に、今まで見ないようにしてきたものが、頭の中に映し出される。
美濃、お前を忘れていたよ。ちゃんとあって話を聞かなくてはならない。それにもう一人、長らく忘れていた女性がいる、確か名前は神薙。そもそもこの地に遊びに行こうといっていたのはあいつだったかもしれない。いつ頃からだろうか、事あるごとに企画を阻害され、度々周囲の人間を困らせていたあいつを、いつしか見ることをやめた。
そんなことを考えながら部屋を後にする。
「は?」
思わず声が出る。それもそのはず、部屋出てようやく気付いたが、ここはコテージではない。その内装を見るに築100年はとうに超えているであろうこの建物には窓すら見当たらない。しかし、恐怖心はない。むしろ、実家のような安心感さえ感じる。
そして、外に出たときこの建物の正体がわかった。見渡せば、周囲に5つの建物を発見した。ここは、神殿の奥の山麓、他の人たちも各建物にいるのだろうか。一つ気になる点がある。それは、建物の数だ。最初見たとき6つであって違和感は感じなかったが、今となっては疑問が残る。ここに私たちが来るべくして来たというのなら7つなければならない。
「まずは、少し歩くか。」
知らないことのほうが多いこの状況で、立ち止まっていてもしょうがない。多少の危険はないものとして、建物の周囲を散策する。
「いや、前提が違うかもしれない」
建物は、人が住める場所は、今見えている限りではない。あの大きな神殿も、或いは人の住める場所なのかもしれない。もしそうだとしたら、誰か我々をここに招いたものが我々の内にいるということだ。
「くそ! なんでだよ、わからないことばかりだ」
周辺に手がかりらしいものはなかった。ここでみんなを探しに行くにはまだ手がかりが少なすぎる。早く会いたいが今はまだ早い。今日は家の中を探索するとしよう。