2日目(2)
予想以上に見入ってしまう。資料で見たものとはまた違う、まるでこの樹海、この山ごと神殿の内であるといわんばかりに、大きく見える。もはや地元の思い出すら薄く、遠いものだ。今、たった今流がれる情報が多すぎてほかのことを考える余裕はなく、昨日のことすらとうの昔に感じる。
「――――――――」
何か聞こえる。いや、今はどうでもいい。
「はっ」
「気づいたか、木竹」
「釜萢!あれ?他の奴はどうした?」
「わからない。何しろ電波が届かないんだ。そのためにこの場所がわからない。ただ、一つ救いがいるとすれば、ここは、遊歩道の上だ。それも一本道の」
「…何か見えるな」
「はは、思い出すよな?薄くではあるが、建物が6つ見える。岬芝 曰はく、ここは神殿の奥だろう」
「そうか、分からないってのは正確な位置のことだな?それなら建物と反対側に歩けば神殿につくじゃないか!あとは人だな、奴らどこに行きやがった。」
「この先にわかれ道がある。そこより先は分からない、、、神殿にいるのなら連れ帰れるがこの先の分かれ道をこえたならもう、その人次第だ」
「そうか、釜萢、お前は何処で気づいた?」
「ここより少し手前で、散策中お前が歩いているのを見てここに留めたんだ」
「なるほど、助かったよ。先に帰ってくれ、私はこの先を見てみたい。」
視界が悪い。湿度が高いのだろうか、眼鏡に水滴がついていないかとぬぐってみるが変わらない。少し不気味に思い周囲を見回す。
「はあ、」
ほとほと愛想が尽きた。釜萢の言葉を思い出したのはたった今だ。隣にも似たような道が見える、つまり分かれ道は超えたのだろう。さすがにこの奥には進む気にはなれない。
「あれ、もう見えない」
分かれ道に戻ったところで他の道がもう見えない。体力の限界はとうに超え、気力も尽きた。もう十分だろう。
「タケ!待って」
「芹北見! と美濃もいるな おい、こっちにこいよ」
「…」
「どうした」
「そっちには行けない。お前もこっちに来れないだろう」
そんな気はしていた。おそらくここでの分かれ道は6つ、つまり丁度人数分あることになる。他人の道に入れないでのあれば、そもそも見る必要がない。いや、そんなことは今考えることではない!芹北見を助けなければ。美濃め、ふざけた顔しやがって、もしここであいつを逃したなら、、その後何が起こるかなんて考えたくはない。しかし、まだ決めつけるにはまだ早い。
「すぐに改めるというならここで起きた行動、お前を見なかったことにできる」
「かかかっ それは逆だろう?」
「今ここでどちらが上に立っているか、よく考えたほうがいい」
「それならここで会話終了だ。次会った時、想像していた立場じゃなくても、無様な命乞いをするなよ」
「待てよ、」
足が重い。振り返ってまだ一歩も踏み出せていない。
「かっかっかっか、お前ならここからでも十分」
「山に組したな」
もはや驚きはない。おそらく山にたまった何かを引き出してここに物性物理を捻じ曲げて見せた。奴の右手に握られたあの鎖は十中八九この山のものだろう。
「見え見えだ」
まっすぐ向き合い、繋がれた重鎮をゆっくり引きずる。
―――――金属のきれる音がした―――――
「わっ」
「芹北見!走れ!」
解除は同時、当然だろう?ひとつの鎖で二人それも別の場所、そんなことは実現しない。
力というものは、数が多いほど、距離が遠いほど弱まる。これが理であり、妖でさえ例外ではない。
「まだいけない。」
「え、な、なに言ってんだ! 早く来い!!」
「私が行ったらミノはどうなるの、」
「知ったことか!早くしろ!」
「がああああああああ!」 やつは右腕大きくを振り上げる。
瞬間、芹北見の体を多量の鎖が巻き上げる。
「もらってくぜ、、、」
何も思考はない。ただ、私の中で一人の男は存在を消したようだ。
疲労困憊での帰還、今夜は誰とも話したくない。誰が返ってきたのかそれすらどうでもいい。部屋に入ると隅に荷物を投げた。これを私の失敗とは言わせない。
「どこかで間違っていたのか?」
そんなはずはない、そう信じて、意識を手放す・・・