2日目(1)
「朝だ、そろそろ起きろよ」
「ん、ああ、早いな岬芝」
おかしいな、朝起きれないなんてこれまでなかったのに、慣れない土地での生活は予想以上に応えるらしい。岬芝が先に起きているなんて珍しいな。今日は樹海の散策があるため早くから準備していたかったが、影が短い。
「昼飯を食べたら出発だな」
「タケ、おはよう。準備できてるよ」
「俺もさっき起きたばっかだから少し時間かかるな。岬芝、確かルートの確認はできてるんだよな?」
「そういう美濃はかくにんできてるか? 一応軽くしてるけど、一人一人道を覚えてないと困るなー」
全体のための行動は個人に帰ってくる。だから、岬芝にはここで遺憾なく力を発揮してもらいたいが、個々に能力があるならそれに越したことはない。みんなマップをしっかり確認してくれ!といいたいところだが、準備が遅れている私に言う資格はない。釜萢と園滝はどこにいるかわからないが準備は終わっているらしい。いそいそと飯を掻き込み支度を始めた。
「全員準備ができたようだな。そろそろ出発するか、ちゃんとカギを掛けておかないと盗人が入ったら大変だから」
「すでに中に何か入っているとしたら?」
釜萢はたまに訳の分からんことを言い出すから困る。頭は悪くないはずだ。ただし、なんというか、、独自の感性ではなしやがって、理解できないこっちが馬鹿みたいじゃないか。
「みんな各自理解していると思うけど、今日通るルートについて、昨日釣りをした川を越えていくと大きな湖がある。それに沿って左側に進んで樹海に入る。そうすれば後は一本道で神殿につく。その神殿を囲むように6つ建物があって、ただし神殿からそれらは見えず、さらに奥に進む過程で見えてくるらしい。まあ、今回は神殿まで行って終了」
岬芝は得意げに語る。
「おいおい、ここらへんからじゃ分からねーが、この写真によればかなり豪勢な神殿じゃねーか!こんなとこに建てずにもっと町のほうにすればよかったのになー」
「ここがパワースポットになってるのは人が出入りしないからかもしれないよ?そこの石を持ち帰れば神様に見守ってもらえるっていうし楽しみー!」
芹北見はメルヘンチックなものが大好きだ。この手の話は一通り網羅しているのだろう。
結局ルートは岬芝に任せてしまったが、囲むように6つ建物?マップには書いてないが、いったいどこの情報だろう。初めて行くからなどと保険をかけていたがかなり念入りに調べたらしい。
「見えてきたな湖が!」
美濃が急に走り出す。それに続いて一人、二人、まったくしょうがない奴らだ。体力がないの人のことも考えてほしい。
ようやっと樹海に踏み込んだ。神殿まではあと半分ほど、芹北見の体力が心配だ。表情は変わった様子はなく、速度も変化はない。ただ、会話に覇気がない。一方、園滝は呼吸さえ乱していないように感じる。いや、逆に必死に隠しているのかもしれない。
「園滝、全然息が上がってないようだが体力には自信があるのか?何か部活動とか入ってたのか?」
「体力は、まあ人並み以上には、、家が道場なの。基礎体力は備わっているわ」
「ん、それは初耳だ」
こういう時、体力の必要性を感じるな。それに、何か武術を習っていたのは、納得できる。我々の中で一番綺麗に歩いていて、素人からでも軸がブレない様が見て取れる。
「タケ、疲れてる? 大丈夫、私もだから」
「え? そう見えるか?」
「うん、そんな気がする。」
おかしいな、そんなそぶりは見せていないはずなのに、どこから感じ取ったんだ?自分のほうが疲弊しているだろうに。そうだった、芹北見は自分のことより人のことを考えるやつだ。それが原因でいつか自身を潰さないか心配だ。
「おーい、神殿が見えたぞ!」
「やっとか!存外長かったな。二人はもう先に行ってるか?」
「ああ、先に飯を食べてるらしいよ。先にちょっとした休憩場がある、こっちもそこで食べよう。」
「なんだ、岬芝はまだ食べてなかったか、悪いな、気を使わせて。」
「いいって」
こうして、私たちは神殿にたどり着いた。それまでこの土地の伝承で岬芝と芹北見で盛り上がっていた。昔から各地の伝承を読み漁っていた芹北見に付け焼刃の岬芝がかなうはずもない、と思っていたが、予想にもかなり拮抗していた。ただし、補い合うように。というのも二人の焦点はかなりずれていた。芹北見の説は神殿付近で行う行動とその結果を示すもので、人の幸福に関わるようなものが多かった。一方、岬芝の説は神殿本体と周囲の環境を示すものが多く、人に関する情報はほとんどなかった。にしても、昨日までここらの情報はたいして知らなかったはずの岬芝が、一夜でどのようにここまで情報を仕入れたのだろう。その真偽はわからないが、急にやる気を見せたのかもしれない。以前にも、そのようなことがあった。今回は相当やる気が出たと見える。ありがたい。