あの日の君を探して
この世界の果てには、昔の君に会える場所があるという。
僕は、昔の君に会うために、旅に出ることにした。
今の僕は、社会のレールから外れてしまった。
かつて神童と言われた僕はもういない。
いるのは、平均年収の半分で働く惨めな男だけ。
そんな僕は昔の君に会いたい。
昔の君は、僕の幼馴染で親友だった。
君は僕と一緒に図書館や山に行っては可愛らしく笑っていた。
15の頃までは僕らはとってもうまくいっていた。
昔の君は、僕に好きだと言ってくれた。
君は、落ち込んで精神的に参っていた僕に優しく接してくれた。
僕は君が好きだった。
昔の君は、もう僕とはいられないと言った。
君は、僕の相手をするのが疲れてしまったのだとそう言っていた。
それから、僕は君とは会っていない。
僕は、昔の君が好きだった。
親に殴られ罵られ、勉強が手につかなくなって大好きだった科目の試験すら落第したあの頃支えてくれたからじゃない。
ずっと昔から、僕は君が好きだった。
僕は、昔の君に会う旅に出る。
僕は、リュックサックを担いで、一級河川を川上に向かって歩いていく。
この世界の果てに、昔の君に会えるという場所があるらしい。
どこが果てなのかは分からない。
ならば、川の始まり、もしくは終わりにヒントがあるのではないかと僕は思う。
僕はただただ、石だらけの河原を歩いていく。
歩いていると、僕は一匹の鼈と出会った。
僕は無視して通りすぎようとしたが、鼈が話かけてきた。
「お兄さん、こんにちは。一体どこに行こうとしているのかね」
「こんにちは、川の始まり、世界の果てに行きたいのです」
鼈は暫しクスクスと笑いながら、僕の靴を噛んだ。
「やめておきなさい、お兄さん。いったい世界の果てなどどこにあるというのかね」
鼈がクスクスしながら歩いていってしまったが、僕は再度歩き始めた。
暫く歩くと、一匹の美しい狐が立っていた。
僕は少し会釈をして通り過ぎようとすると、狐が話かけてきた。
「坊ちゃん、こんにちは。一体どこに行くの?」
「こんにちは。もう坊ちゃんなんて呼ばれる年ではありませんよ。世界の果てに行きたいのです」
狐は少し悲しい顔をして、ぎゃんと泣いた。
「悪いことは言わないわ。お家にお戻りなさい」
僕は無視して歩き始めた。
「坊ちゃん。ここが世界の始まりで、世界の果てなのですよ」
僕は歩いた。
幾つもの山谷を超えて、幾つもの障害を乗り越え、幾夜も歩き、幾日も歩みを止めなかった。
世界の果てを見つける旅に果てはない。
今の君は、遠い町で幸せに暮らしているという。
海沿いのその町で、2人で一緒に暮らしているという。
もうすぐ家族も増えるという。
僕はそれに祝福せずにはいられない。
それでも、僕は昔の君に会いたい。
それは、果てなき夢物語・・・。
薄れゆく、意識の中、私は君に会いたかった。