第十二話
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修正
「本気を出すだぁ? 嘘ぬかしてんじゃねー!」
「嘘じゃないさ。これを使うと手加減が難しいからな······けど、お前みたいなヤツには加減する必要ないと判断しただけだ」
「はっ! 俺の攻撃のタネがわかった所で、てめえの不利には変わりねぇんだよ!」
リュドは右手の全ての糸を1本に収束させた。
「ハハハハッ! これでどうだ! 範囲を絞った分、スピードと威力はさっきの比じゃねぇぞ! 〈スパイラルスレッド〉!」
リュドは束になった糸を高速回転しながらムクロに向かって放った。
「いくぞ、セン」
「承知した」
ムクロは落ち着いた口調で手に持っている杖を前に構えると、センが光の塊となり、ムクロに入り込むと光り出した。
「何をやっても無駄だ!」
高速回転する糸の束がムクロの胸部辺りに当たる寸前。光りの中から腕が現れ糸の束を掴んだ。
「なっ!? 高速回転している俺の糸を!?」
光りが弱まっていくと、センの容姿が混じっているムクロが現れ出した。
「〈魔獣同化・邪竜王セン〉」
「フン! 姿が変わったところで、そのままその腕を切り刻んで――」
なんだ!? 抜けていない!? なんて力だ。
リュドは糸の束を引っ張ろうとするが、全くびくともしなかった。
「おっとすまない。離してやるよ」
ムクロは束ねた糸を離すと、勢いよくリュドの方へ巻き上がった。
「なめやがって、貴様!」
「これで、少しは本気がだせる」
ムクロが使ったのは、SS級装備品【混獣の杖】の装備スキル〈魔獣同化〉は自身と手持ちのモンスターとの合体であり、HPとSP以外のステータスを上乗せだけでなく、モンスターが保有するスキルを使うことができるようになる装備スキル。
ムクロは【人魔の黒書】の〈従魔天職〉で職業を取得。さらに〈従魔武装〉で与えている武器は従魔の身体の一部扱いなるため武器が扱え、従魔モンスターはより強力になって合体しているが、欠点として〈魔獣同化〉を使っている間はムクロが装備している装備品のステータス補正がなくなり、SPも毎秒2消費され0になると強制解除するが、装備品の装備スキルの効果は残るため【破蛇の革籠手】の〈SP消費半減〉と【悪魔の血染め衣】の〈HP・SP自動回復〉でSP消費は相殺されているため、実質欠点はなくなっている。
「さぁ、再開と行こうじゃないか」
ムクロは左に差している刀に手を置き構えた。
「この俺をなめるなぁ! 〈スパイラルスレッド〉!」
リュドは再び〈スパイラルスレッド〉を使うが、今度はより速くなっていた。
これはさっきより速いな······けど、捉えられない速さじゃない。
ムクロは糸の束を切ろうとするが鞘から刀を抜こうとするが、一瞬リュドの方を見ると不敵な笑みを浮かべていた。すると、束ねた糸が広がりムクロの四肢と首に巻き付けられた。
「ハハハハッ! 騙されたな! そのまま貴様の首と手足を切断してやる!」
ムクロに巻き付けられた糸は少しずつ締め上げてきた。
「じゃあ、その前に」
「何やっても無駄だ! 貴様の言う通り俺様の右手の糸は攻撃用。左手の糸は防御用だ。特に左手の糸は右手と違って半分ほど短いがその分、右手の糸以上に硬い、左手の糸は常に俺様の全身を守ってる。頑丈な武器さえも切り刻む、鉄壁のまも──」
「〈縮地〉」
ムクロ〈縮地〉で加速し、一瞬でリュドの懐に潜りこんでいた。
「──り?」
「〈居合・峰打ち〉」
「ガハッ!?」
ムクロが一瞬で抜刀した瞬間。リュドは吐血をして、そのまま膝から崩れた。
な、なんだ······俺の糸の防御をたやすく······いやそれより全く、見えなかった。何なんだこいつの異常な速さは?
ムクロがセンと〈魔獣同化〉したのは、最も最適だったからだ。センの職業戦士職【侍】は一対一に長けた職業であり、中でもスキル〈一騎討ち〉は自動発動するパッシブスキル。その効果が一対一の場合にのみSTR、AGIが上昇する効果を持ち、一部のスキルの抜刀の速度を上げるスキル〈刀術:居合〉と必ずHPが10%残る〈刀術:峰打ち〉と組み合わせることで、高い抜刀の加速を持ちながら手加減ができるようになる。
リュドが混乱をしている間にムクロは抜いた刀を鞘に納めた。
「これで、わかったろ、お前じゃあ俺は倒せない。さっきの攻撃も手加減できるスキルを使った俺たちの勝だ」
「イ、イキがるな」
リュドは、無理に立ち上がり出した。
「俺······いや俺様は十二英雄だ! てめぇみてぇな雑魚と構うほど、暇じゃねぇんだよ!──〈絶糸界〉!」
ムクロは何かを感じ、後方に下がるとリュドの周りに半球体が現れだした。
「ハハハハッ! どうだ! これが俺様の切り札〈絶糸界〉だ! 攻撃と防御の糸を縦横無尽に展開した攻防一体の糸の結界だ! 触れば全ては木っ端微塵だ! ダハハハハッ!」
「確かにこれはヤバそうだな······けど」
ムクロはリュドに向かってゆっくり歩き出した。
「無駄だ! 言ったろ、触れば木っ端微塵だってな!」
「それはわかった」
ムクロは糸の結界に近づくと、縦横無尽に動く糸を難なく、躱しいった。
「ば、馬鹿な!? なんで!?」
「理由は、簡単だ。糸の動きを予測して避けてる。本来であれば無理だが、今の姿であれば問題ない」
そう言っている合間にムクロはリュドの目の前に着いた。
「てめぇは、一体······何者だ」
「教える義理はないだけど、 “死呼びの召喚者” ······それだけ覚えとけ」
ムクロは刀を抜き、上段で構えた。
「わ、わかった! もう、あの劣等──いやあの小娘はもう追わない! だから! 殺さないで殺さないで殺さないで殺さないで殺さないで殺さないで殺さないで殺さないで殺さないで殺さないでころ──」
リュドは何度も叫ぶがムクロはリュドに向かって刀を振り下ろすと、轟音と共に砂煙が舞い糸の結界が消えた。




