第十一話
「えっ? なに? もしかしてこの俺を戦う気? 無理無理、この俺に勝てるはず無いじゃん」
男はムクロに向かってあざ笑った。
「てめえ、随分と舐めっ──」
ムクロは前に出ようとするが、後ろに引っ張られた感覚があり後ろを振り向くとフェルネスが震えながら外套の端を掴んでいた。
「に、逃げて、ください。いくらムクロでも、彼には勝てない······です」
「そのとおり、どうせ勝てないだからな! この俺様、十二英雄のリュド様がな!」
聞いてもいないのに男の方から名乗り出した。
「十二英雄? あいつはそんなにヤバいのか?」
「はい······十二英雄は王国が持つ勇者と同等もしくは、それ以上の実力を持った、12人の戦士のことです」
フェルネスは辛うじて聞き取れる声で答えてくれた。
勇者······この世界に存在していたのか。
「おいっ! 無視してんじゃねーよ!」
男がしびれを切らして右腕を構える態勢を取り始めた。
「一つ聞きたい!」
「あっ?」
「なんで、この子を狙う! 話を聞くに十二英雄は国の戦力なのだろ、そんなにお前がわざわざ、この子を追ってきた! 一体なんの罪を犯したって言うんだ!」
ムクロは男が仕掛ける前に質問を投げつけた。
「あ〜そうだな······混ざり者だから」
······はっ?
それを聞いたムクロは唖然とした。
「混ざり者って、混血種のことか? なんで混血種って、だけで罪人なんだよ!」
「それはだな、混ざり者は薄汚い家畜の亜人でもなければ人間でもない劣等種。存在してもなんの価値もないなら、殺した方がいいだろ?」
その言葉を聞いて、ムクロは言葉を失った。
なんだよそれ、そんなに理由でフェルネスは、あんな怪我を······こいつの言葉に罪悪感が一切ない。
ムクロはこみ上げてきた怒りが一気に込み始めた。
「だからわかったろ、だったら早くそこの小娘をこっちに渡し──」
「〈疾風〉」
ムクロは男が喋っている最中に瞬時に男の懐に入り込んだ。
「もういい、てめぇはもう喋るな!」
ムクロが右腕を構えようとしたその時に、男は不敵な笑みを浮かべた。
こいつ!? やばっ!
ムクロは危険に気づき攻撃をやめて後方へと下がったが、突然ムクロに斬り傷ができていた。
「いっつぁ!?」
何が起きた? さっきもそうだ武器らしい物を持っていなかったのにこの斬撃。今は下がったからこの程度に済んだが、さらに前に行っていたらやばかった。
しかも、完全に予測しきれなかった。俺の《予測》は相手のレベルが55以下であれば、回避からの反撃は容易に可能だが、それ以上だと回避までが限界。それもままならないだとするとあいつはレベルは相当高いよな。
「随分と、強いんだなお前」
「そうだろ、俺様はな“不可視の蛇”のリュドって呼ばれているぐらいだからな」
しかも二つ名持ち、はっきり言って素の状態だと相当きつい······だから少しでも情報を見させてもらうよ。
エラー:固有スキル〈神の眼光〉の効果により対象の情報が閲覧できません。
はっ!? 見れねぇって嘘だろ! 固有スキル全然役に立たねぇ!
ムクロはリュドに向かって〈神の魔眼〉を使用するが相手のレベルやステータスが見られなかった。
まっ、見れないのならそれでいい元々俺は戦いながら解析する方が得意だし······フェルネスもセンたちに任せれば大丈夫だな。
ムクロは相手の攻撃に備え構え始めた。
「どうやら、お前も準備ができたみたいだな、それじゃあ再開とするか!」
リュドは右腕を縦に大きく振り下ろし、それを見たムクロはすかさず、左に避けると地面が5本の線に裂けた。
「ほらほらっ! じゃんじゃんいくぞ!」
リュドがそう言うと、右腕を縦横無尽に振り下ろし攻撃を仕掛けるがムクロはリュドの腕の振りを見ながら、攻撃をかわすが次第に攻撃が少しずつ当たり始めた。
これっ、まずい。攻撃が当たり始めた。今は自動回復とダメージ軽減で何とかなってるが、このまま攻撃を受け続けたらまずい。早くヤツの攻撃の正体を掴まないと······相手の言動と性格そして、攻撃パターンから予測しろ。
ムクロは避けながら、攻撃の正体を探るが全くつかめずにいたが、一瞬リュドの言葉が横切った。
そういえば、あいつは自分の二つ名を“不可視の蛇”って言ってた。二つ名のほとんどは戦闘スタイルが元になることが多い。そしてこの見えない攻撃······なるほど、そういうことか。
「そろそろ、終わりにするか!」
リュドが思いっきり右腕を振り落とそうとする瞬間、ムクロはタイミングを見て、後方に下がったるとムクロの目の前の地面が裂けた。
「なにっ!?」
「なるほど、やっぱりな」
「何がだ!」
「お前の攻撃の有効射程と攻撃の正体がな」
ムクロは、確信をついたかのように、リュドに指を指した。
「俺の攻撃の正体だと!?」
「お前は喋りすぎなんだよ、攻撃の正体は······糸だろ」
そういうと、リュドの顔色が変わった。
「ど、どうしてそう思った!?」
「まず、確信をついたのはお前の二つ名を思い出したときだ。二つ名は大概、戦闘スタイルが反映されることが多い。 “不可視の蛇”の蛇を糸と見立てればそれでいい、それに攻撃の際は必ず5回の斬撃、それは恐らく指の数、お前が両手にはめている指輪に目視での確認が難しいほど頑丈で細い糸が仕込まれている。そして糸を使う職業と言えば······盗賊職【糸使い】だな」
盗賊職【糸使い】は糸を使った変幻自在の攻撃を得意とする職業である。
「攻撃見るに有効射程は15メートルで、右腕の攻撃しかしてない所を見るに右で攻撃。左で防御ってところか、違うか?」
「······確かに、俺様はどうやら喋りすぎたようだな、全く自分が嫌になるよ。たがな! それがわかったところでてめぇは防戦一方には変わりないだろ!」
「確かに、それは言えている、だったら······〈呼び出し・セン〉」
ムクロがスキル唱えると、ムクロの横に後方にいたセンが現れだした。
ムクロが使用した【召喚士】のスキル。〈召喚術:呼び出し〉は半径300メートル以内の指定した従魔モンスターを術者の近くに呼び出すスキルである。
「主どうせ我は、後ろにいたのだから普通に呼べばいいだろ」
「ごめん、つい面倒くさくて」
「まったく······それで、ここからは我も参戦していいのか?」
「いや······ここからは、あれを使う」
そう言うとムクロは、再び仮面とフードを被りだした。
「おいおいっ マジかよ俺様に勝てないからって、2対1とは情けねぇな。まっ、十二英雄である俺様を相手にしているのだから、これぐらいのハンデがあってもいい──」
「黙れ」
「あっ?」
ムクロは仮面越しでリュドを睨みだした。
「ここからは······少し、本気を出す」
ムクロは【収納の指輪】から獅子、山羊そして蛇の頭が装飾された杖を取り出した。