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失態「とある兵士視点」


「は? なん――」


 俺は目を疑った。外を守る同僚達が上げた声に開かれたままの入り口の方を見た時、、ソレはもう同僚たちとすれ違い、こっちに突っ込んできていた。


「馬の背に丸めた紙屑で出来た塊を乗っけたようなナニカ」


 としか形容のできないものに気を取られた俺であったが、呆然と立ち尽くしていたのは僅かな時間だった。


「な」


 その異様なナニカとすれ違った同僚達が糸の切れた人形か何かの様に崩れ落ち、我に返った。よく見れば外にもアレとすれ違ったのであろう通行人や通行許可待ちの人間が何人か倒れ伏している。


「アレはやばい」


 ようやく理解が追いつくも、門を閉めるには遅すぎた。上に乗っかっているのは謎だが、馬にナニカが乗っているのだ。その速力は凄まじく、危険を知覚した時には俺自身ソレとすれ違う直前地負ったありさまだった。


「おのれっ!」


 だが、先日盗人に突破を許し、今日もまた何もせぬまま失態を重ねるわけにはいかない。せめて一矢報いようと腰の剣を抜き、馬の上に乗ったナニカを斬りつけ。


「うっ」


 すれ違ったナニカがどうなったかを確認する余裕もない。斬ったものとすれ違った直後、猛烈な眠気に襲われた俺の意識は抗えぬ速さで闇に沈んだのだ。


◆◇◆


「おい、しっかりしろ! おい!」


 誰かが、呼んでいる。身体が引っ張られ、揺れて。 


「んん、交代の時間なら」


 まだ早い、と言いかけたところで、俺は思い出した。勤務を終えて仮眠室でベッドにぶっ倒れていたわけではないことを。


「門は、あのわけのわからないのは、どうなった!」


 眠気は一気に醒め、手をついて身を起こした時に気づく。掌か触れた冷たい石床の感触。俺はどうやら床に横たわっていたらしいということに。つまり、あの場所に倒れたままだったのであろう。


「訳のわからないのとは、あれの事か?」

「へ?」


 言われてまだぼんやりとした視界の中、俺を起こしたと思しき人物の輪郭、その腕が向いた方向を見る。ゆっくりと鮮明になってゆく街の外、長い棒を持った同僚がつついているのは、紙屑と細い糸の様なモノ。一見するとただのゴミにしか見えないが、あの時俺が斬ったナニカの一部であることは見紛いようもない。


「あれは……」

「正直に言うとまだよくわからん。近づこうとした者は倒れ込んで寝てしまうのでな。あの棒で動かして、ようやくお前を起こすことが叶ったぐらいだ」


 言われてなるほどと理解する。あのナニカに人を眠らせる力があったなら、その一部を俺が斬り落としてしまったことで、ここに誰も近寄れなくなってしまっていたのだろう。


「も、申し訳ありません。とんだ失態を」


 一矢報いようとして、結果的に大失態を犯してしまった。あのナニカに眠らされずに済んだ者が居たとして、倒れた俺達を見たらどうするか。俺なら駆け寄る。そして、斬り落としたアレによって眠らされ、ミイラ取りがミイラになる。みすみす無事だった同僚を二次被害に巻き込んでしまったのだ。


「くそっ」


 俺は自身の愚かさに歯噛みした。



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