どちらが悪いという訳でもなく
「やっぱり思いつきませんね。ミリティアに靴を脱いでもらっても捨てていきでもしない限りは荷物として持ってゆくことになるわけですし」
街を出るなら、荷物検査は避けて通れない。技能書はストレージに隠せるが、あれに収納できるのはあくまで僕の技能で取りだしたモノだけなのだ。
「強行突破はさすがに避けたいところですけれど」
現状のまま案が浮かばなくては、他に手立てがない。運頼みで状況を打破できる何かが取り出せることを狙って技能を使うという手もあるが、修復し取りだされるモノに意識を傾ければ、その分注意が散漫になる。
「ヴァルク?」
「ああ、すみません。どうやって街の入り口を出ようか考えてまして――」
解決策を思い浮かばぬまま思考の袋小路に迷いこんでいた僕は、ミリティアの声で我に返って謝罪し。正直に良い案が無いことを明かすべきか迷っていたところで、ミリティアは言った。
「それなんだけど、こういうのはどうかしら?」
と。
「街の事件のことなら巻き込まれかけたヴァルク程じゃないけれど、聞いてるわ。同じ街の中の出来事だし、私もああして市井にお忍びで出かけたりすることはあったから」
「あー。まぁ、高価な品が盗まれた上に街からの脱出を許したとなると、結構なじけんではありますもんね」
「ええ。だから、犯人が男性で街の入り口を強行突破で脱出したってこともわかってるわ、だから――」
ここまでも内輪に秘めなければいけない話、声は当然控えめであったが、そこからは更に声を潜め、ミリティアは続ける。
「え゛」
「どう? 割と自信はあるし、おおよその問題は解決すると思うんだけど」
内容を聞かされ顔を歪めた僕に得意げな顔を見せるミリティアへ、僕はすみませんと謝った。
「へ? すみませんって、どういうこと?」
「いえ、さっき、あの飲食店では店主さんや従業員が居たから言えないことがありまして――」
ミリティアの提案は僕の考えて居た強行突破よりも成功の可能性は高そうであった。だが、やはり強行突破には変わりなかったのだ。突破すれば当然追手が出るので、ムレイフさんをあの場所で待っていられるような余裕はなくなる。
「話すのが遅れた僕が悪かったんでしょうけどね」
ムレイフさんを置いてゆくわけにはいかず、僕は実はと前置きしてから、落ち合う予定の人物が一人いることと、であったいきさつを話し始めたのだった。