一番の問題
「ミリティア、服の手直しと着替え、まだかかりそうですか?」
冒険ギルド利用者と出来るだけ会いそうにない道を馬車は進み、その結果として馬車の通れる道の終わりは近づいていた。
「手直しは早く仕上げることを優先したからもうすぐできそう。けど、縫った場所の強度とかに疑問が残るから後で手直しは必須よ。けど、そうやって話しかけてきたってことは……」
「ええ、馬車で進める道がそろそろ終わりそうなんです。それと、どうしても寄っておかないといけない場所を思い出しまして」
「寄らないといけない場所?」
おうむ返しに尋ねて来たミリティアに、僕は靴屋ですよと答えた。
「服に靴がそぐわないというのもありますけど、馬車を置いてゆくとなると以後は歩きですからね」
貴族の女性が普段履くような靴は、高級すぎて古着には合わないし、長距離を歩くのにだって向いていない。
「……言われてみればその通りね。けど、靴だけ高級な客が普通の靴を買いに来たら靴屋の人間が不審に思わないかしら?」
「そこを指摘されると弱いんですけど、今しがた思い至ったところですから、対処法と言うと口止め料を渡すぐらいしかまだ思いついてなくて」
だが、靴だけはどうにかしなくては拙い。長距離の歩行に向かない高級な靴で足に肉刺でもできてミリティアが歩けなくなったら拙い。
「うん、歩けなく?」
ポツリと漏らして僕は前を見る。馬の後ろ頭が見えた。
「馬、か……ミリティア、馬車を牽いてるこの馬ですけど、実家の刻印とか入ってます?」
「ううん、乗馬用の馬には印が入っているけど、その子には……ああ、そういうことね」
「ええ。靴を用意しなくても馬に乗っていけば――」
街を出る時、ミリティアの着てきた服とか履いている靴を見とがめられないかと言う問題が残ってはいるが、靴屋に寄らずに済むならかなりの時間短縮にはなる。
「となってくると、問題はやっぱり街の入り口をどう通過するかですね」
付与品を強奪した犯人に街の入り口が突破されたのはつい最近のこと。反省から犯罪者の強行突破に備えた警備の仕方をされていても不思議はない。
「うーん」
この街を出るに当たり最後にして最大の問題を前に僕はただ唸るだけだった。