失念
「問題があるとすれば、誰がその投書をするかですね」
指摘すると、ミリティアの声で「あ」と一音が中からして馬車内が沈黙する。
「えーと」
ミリティアからするとお互い以外の協力者が居ないことを失念していたのだろう。僕やミリティアが投書した場合、変装していても身長や体つきと性別なんかで、問題の当人だとバレてしまう可能性がある。
「ミリティアが僕の目を盗んで手紙を出したってことにして、そこに書きます?」
それなら手紙の紙質が悪くても良い訳は立つ。
「……確かにそっちの方が信ぴょう性はあるわね」
問いかけに馬車の中からミリティアのコメントが返ってきたのは、暫くしてからのこと。
「一考の価値はあるかもしれないけれど、とりあえず後回しね。凝った作りなんて無理でも、かける手間を最小限にすれば――」
「あ、すみません」
言われて今度は僕が失念に気づく番だった。ミリティアは現在僕の服を手直し中なのだ。
「とりあえずお互いのやることに専念した方がよさそうですね。僕は馬車の遺棄をする少し前のタイミングで一声かけますから、そちらも手直しが終わって着替えたら声をかけてください」
「わかったわ」
それじゃと言う声を最後に僕も馬車の操作に集中する。
「こう、人の少ない時間でよかったですよね」
人通りの多い時間帯だったら、馬車なんて動かせたかどうだか。
「とは言っても、馬車の通れる幅の道って限られてるんですよね」
この馬車でどこまで距離を稼げるか。
「あまり人通りの多いところは駄目ですね。冒険者ギルドの利用者に見られるのは、よろしくないですし」
こちらの顔を知っているギルド利用者に見られてしまうと、僕が貴族の馬車の御者をしていたことが広まってしまって、ミリティアの家族の耳に入る可能性が出てきてしまう。
「普通に考えると御者の人が報告する方が早い筈ですけど」
悪い可能性の芽は発芽させない方が良いに決まっている。