確認と思いつき
「ところでミリティア、お付の人って何人くらいでここに来ました? 他に追っ手になりそうな人とか居ます?」
とりあえず、首尾よく追っ手を眠らせることが出来たとは思うが、他にもお付の人が何人かいるとなると、状況は変わってくる。ミリティアの技能は匂いによるモノなので、風上から近寄られると効果を発揮しづらいし、挟み撃ちにも弱いのだ。
「それなら安心して、御者が一人だけだから。これでしばらくは大丈夫の筈よ」
「……そうですか」
「ヴァルク?」
「でしたら、馬車をお借りしませんか? さっき『無計画な思いつきの行動は慎むべきですよ』って先生の言葉を引き合いに出しておいて、思いつきのアイデアを口にするのはちょっとアレですけど、馬車が無くなれば、あの御者の人が起きてもミリティアの家に連絡が行くのが些少なりとも遅くなりますし――」
一応僕も貴族の家の出だ。馬の扱い位は教えられている。
「流石ヴァルクね。けど、ヴァルクが御者で不審に思われないかしら?」
「うーん、否定はできませんけど、ぶっちゃけると徒歩より早く移動できることと報告を遅らせることの両方が狙いであるものの、馬車で街の外に出ようとは思いませんから」
どちらかといえば馬車と言うか馬を使わせないことに比率が高いので、移動速度の向上は、少しでも時間と距離が稼げればラッキー程度のモノでしかない。
「なりふり構わず撹乱するつもりなら、無人の馬車を走らせたりもするところですけど、その馬車が誰かを轢いたら寝ざめも悪いですし」
馬車はどこかで乗り捨てるべきだろう。
「と、言う訳で勝手口を出たら外を回って店の入り口まで戻りますよ」
「うん、わかったわ」
「さっきの御者の人があまり賢くなくて勝手口の方に追いかけて来てくれると、馬車が無くなってるのに気づくまでにより時間がかかって良いんですが」
希望を口にしてもその通りにものごとは動いてくれない。僕に出来るのは、ミリティアの手を握りつつ、ただ走る事だけだった。




