彼女の力
「ミリティアの技能と言うと……」
ローズフォレス家の者が目覚める技能は大半が植物か香りに由来するモノとなる。これはその家が国から任される役職に相応しい技能が発現するようにと結婚相手を厳選した結果であり、他の貴族の家でも見られる傾向である。
「生じさせた匂いを知覚した相手を、眠らせたりとかできるんでしたよね」
「そうよ」
かなり強力な効果で、使い道は色々。深手を負って苦しむ怪我人を眠らせるとかと言った人の為になる使い方もできるが、風上に逃げれば追っ手を眠らせることも可能だし、匂いを付着させることで疑似的な付与品のような使い方もできる。
「確かに追っ手を防ぐにはうってつけの能力ですよね」
ちなみに僕の実家の場合、発現しやすいのは知識と本、そして記憶だ。そう言う意味では僕も例に漏れてないことになるし、偽って報告した紙屑を取り出すだけの技能だって実家の傾向を考えれば、発現してもおかしくない技能ではある。
「でしょ? 対外的にはヴァルクに脅されて仕方なくやらされてるってことにしないといけないから申し訳ないけど」
「いえ、もう今更ですし……それよりも、技能って人によっては制約のあるモノもあるはずですけど」
確かに強力だが、ミリティアの技能は使いすぎると副作用のあるモノだったと当人から聞いている。
「ああ、それなら大丈夫よ。ヴァルクと一緒に居れば、副作用何てあってないようなものだから」
僕の懸念をあっさり笑い飛ばしたミリティアは、そんなことよりと言葉を続け。
「これであの日の約束が果たせるわよね? それに、もうあんな嫌な家族に煩わされることもない……ふふふ、私とヴァルクを失って今までの行いを後悔するといいわ。ううん、えっと、そう『ざまぁ』だったかしら? 前にヴァルクのお家にお邪魔した時書庫にあった物語にそう言うのがあったわよね?」
「あっ、え、ええ。市場で流通してる本を取り寄せて王立図書館に収めるかどうかを決めるのも実家の仕事でしたから」
ミリティアの行動理由の一つが意外だった上に実家にあった本が原因だったと今知らされた僕の顔は引きつるが、技能に覚醒するまでのミリティアの扱いを知っていた僕としては何も言えず。
「ま、待……うっ、これはお嬢さ、ま……の」
既に厨房を通り抜けつつあった僕達の後方で、先ほど外であげられたのと同じ声が途切れ、けたたましい音が響いた。おそらくミリティアの技能で走りながら寝てしまった追手が調理器具か何かに突っ込んだのだろう。