告白
「これまでのことって言われても、先生の教えを参考に冒険者ギルドの門を叩いて、日雇い労働者をしてたぐらいだけど……」
とはいえ、僕にだって分別はある。この場には飲食店の店主がまだ残っているのだ。ミリティアだけなら些少話は変わってきただろうが、僕の技能のことは当然だが、フロント公爵の暗殺の件、ムレイフさんのことも口外できるようなモノじゃない。
「本当に?」
「っ」
とはいえ、隠し事をすればどこかに無理が生じるモノ。解かっては居た、だから他に起こったことも出さなかったのだ。
「出身の違いでギルド利用者ともめ事が何度か。それでもめた連中と鉢合わせするのをよけようと近くにあった店に入ったら、そこが付与品のお店で、僕が付与品か大金を持ってると勝手に勘違いした連中が襲ってきてスラム地区に逃げ込む羽目になったよ」
「スラム地区?! よく無事だったな」
「運がよかったんですよ」
唐突に会話に入ってきた店主に僕は苦笑しつつ肩をすくめ。
「ただ、あそこを根城にする盗賊ギルドの幹部に仲間にならないかと声をかけられてしまいまして」
「はぁ?!」
「いや、ああいうところに居る人たちは、読み書きできる人が貴重だから」
驚きの声を上げるミリティアに事情を説明する。最悪な方向ではないものの目を付けられる形になったのだと。
「僕は実家を追放されてるし、ミリティアの方にちょっかいを出してくるとは別の意味でも思えないけど、その関連で誰かが何かされてからじゃ遅いから」
僕は明かす、街を去ろうとしていることを。
「え」
「それじゃ、今日ここに来たのは――」
「はい、せっかく誘っていただきましたけれど、ご迷惑がかかっては申し訳ありませんし。先日の話をお断りするのですから挨拶に、と」
流石商売人と言うべきか、僕を誘った当人で事情を知っているからか、僕の言わんとすることを即座に呑み込み尋ねて来た店主へ頷きを返す。ミリティアは驚き、言葉を失ったままだ。
「ただ、まさかここでミリティアに逢えるなんて思っても見なかった」
それは掛け値なしの本音だ。それが話さなければいけないことを言葉にできなかった理由にはならないだろうけれど。
「結局、ぼ」
結局僕はミリティアの期待には添えなかった。そう口にしようとして、遮られる。口が唐突にふさがれたから。そう、他ならぬミリティアの唇に。