再会・後
「大丈夫、ミリ」
少し迷って、顔を背けつつ言いなおそうとしたところでヴァルクと名を呼ばれ、衝撃が来た。顔を叩かれたとかではない。こちらが尻もちをつきそうな勢いでミリティアがぶつかってきて。
「ぐえっ」
足元で誰かが悲鳴を上げた。たぶんミリティアの下敷きになってたこの店の店主だろうが、僕に気遣うような余裕はなかった。
「馬鹿! ヴァルクの馬鹿! どうして、私に……馬鹿! 馬鹿! ばか、っ」
しがみ付いて至近距離から発されたミリティアの罵声はすぐに涙声に変わる。けれど、ぼくに何が言えるだろうか。
「ごめん」
言葉をいろいろ探して、言語にできたのはそれだけ。たし、と胸が叩かれる。
「私、わたし……」
何か言うべきなのか、黙って居るべきなのか。それすらわからない中、僕はミリティアの身体へ腕を回し。
「うあ、ヴァる」
「うう、ありがとう」
突然のことに混乱するミリティアを力づくで横に退かせれば、ミリティアに踏まれていた店主が僕に礼を言う。
「あ、いえ」
空気を読まなかったとか、そんなつもりはない。あのままではミリティアが大きな動きをした瞬間、足元から悲鳴がしそうであったのと、踏まれっぱなしは忍びないという二つの理由があったからだ。
「ヴァルク……そこに座りなさい」
「あ、うん」
だからすわった目を向けられ、床を示されたときも素直に従った、ただ。この機に及んでも僕は割と迷っていた。胸が零れ出しそうになっているのを指摘するか否か。
「このタイミングで更に余計なことを口にしたら、それこそ空気の読めない男と見なされても仕方ないですよね」
という感があるのも理由の一つだが。
「たぶん、純粋に嬉しいんでしょうね。久しぶりにミリティアの声が聞けたことが」
人は会わないと相手の声を忘れて行くという。主にそれは故人についてのことだったような気がするけれど。少なくとも僕は覚えて居て。
「言いたいことは色々あるけれど、まずはヴァルクがこれまで何をしていたか、聞かせてもらうわよ?」
現実逃避にか直接関係ないことを考えて居た僕にその要求をはねつけるような力何てなかった。