再会・前
「っ」
足はまだ動いてくれない。どうしよう、どうする。
「僕は――」
踵を返して、逃げ出すのか。それともこのまま声の方に進むのか。
「今更どの面を下げて合えばいいんですか」
心の中の自分が叫ぶ。
「ですけど、この機会を逃したら――」
最悪これが最後になるかもしれないじゃないですかと、別の自分が先の叫びに反論した。どちらも自分だ。
「僕は――」
足はまだ動かない。理由は解かっている、怖いのだ。会った瞬間、何を言われるかも、どんな表情を浮かべられるかも。ただ、ここで立ち去って機会を失ってしまうのも怖くて。だから僕は動けない、決められない。
「けど」
このまま立ち尽くしていれば、結果は見えている。ここは飲食店で時間外れとは言え、店主以外にも従業員がいる。
「いらっしゃいませ」
そう思えば案の上、僕の姿を認めた店員が声をかけてきて。もうくるりと背を向けて立ち去るのは厳しくなった。
「時間外れのお客さんみたいじゃないの。ここはいいから――」
追い打ちをかけるように店主を開放しようとするミリティアの声。時間切れだ。
「せめて……」
自分で決められたら、些少は格好がついたというのに。
「ありがとうございます、お嬢様。それでは」
衝立の向こうから、店主が礼を述べるのも聞こえた。頃合いだ。
「あの、今日はお客じゃなくて――」
「ふぇっ?!」
事情を説明しようと口を開くと、衝立の向こうで声が上がった。まぁ、こちらからも聞こえていたのだ、あちらからも聞こえるだろうと頭の中の冷静な部分が一人で納得する中。
「ヴァる、きゃぁぁぁ?!」
「ぬわぁぁぁっ?!」
「っ」
ミリティアの悲鳴に店主の悲鳴が重なって、僕は気づくと走り出していた。今まで足が動かなかったのがまるで嘘の様。慌てて出てこようとして店主とぶつかったとか、それぐらいは見えなくてもわかった。
「大丈夫、ミリティ」
ついた手を回りこみ、駆け寄って手を差し伸べようとしたところで、僕は再度固まった。転倒の拍子にであろうか、衣服が乱れて、胸元から豊かすぎる二つの膨らみがこぼれ出る寸前だったのだ。