ある昼のこと「ミリティア視点」
「昔口にして居た味を、また口にしたくなった」
そう言う口実で外出を申し出れば、父はあっさり外出の許可をくれた。別に今の料理人の料理に不満があるという訳ではない。ただ、恋しかったのだ、ヴァルクと一緒にあの日食べた料理の味が。
「こういうのをセンチメンタリズムっていうのかしら?
ヴァルクが居なくなって、ヴァルクを思い出させるようなモノは家からどんどん姿を消して行った。ある意味では当然だ。元婚約者の思い出の品が残っていては、婚約したいと思う人を減らしてしまう。ただしそれは娘を家の繁栄のための道具にしか思っていない両親にとっての当然だ。
「私は、そうじゃない」
とはいえ、馬鹿正直に元婚約者と食べた料理が食べたいだなんて言えば、許可なんてくれるはずもない。だが、次の婚約を決めるために些少は機嫌を取っておかないとと思ったのか、今の両親はある程度のわがままは聞いてくれるのだ。
「だから、言い方さえ工夫すれば――」
街の中、しかも行き先が解かっているからこそ、お忍びでの外出も許される。現にこうして今は馬車に揺られていた。
「とはいうものの、これも一時のことよね」
新しい婚約者が決まってしまえば、もう自由はないだろう。そしてその婚約者の決定におそらく私の意思は一顧だにされない。
「はぁ」
ため息が漏れた。もうすぐ、ヴァルクと食べたあの日の料理を食べられるというのに。
「お嬢様、間もなく到着します」
「そう」
外からの遠慮がちなノックのあと御者台の方によれば、外から到着が近いことを知らされ。
「はぁ、愚痴はここまでにしましょ。引きずったらお料理に悪いわ」
頭を振って小窓から音を見た。あの店に赴くのはこれが初めてではない。やがて見覚えのある店が前が見えてきて。
「お嬢様、何もこんなところにお忍びで足を運ばれませんでも」
「大丈夫よ。お父様からも許可は頂いているわ。無断って訳じゃないし、それに――」
出迎えた店の従業員に案内され席につけば、すぐに店主が飛んできて恐縮する店主に私は頭を振った。