後になって思い至る
「人との接触はできるだけ避け、目撃されるのも最小限に――」
冒険ギルド利用者で確実に絡んできそうな相手の何割かは、騒ぎを起こしたことで捕まって痛い目を見た。この上で僕とことを構えるなんてことはよほど馬鹿じゃなければしないだろう。
「衛兵だって何度も騒ぎを起こす人間には寛容じゃないでしょうし」
それでもあの件で冒険者ギルドから出入り禁止処分を受けたとかそう言うことになっていたなら、話は変わってくる。
「糊口をしのぐ術を失った連中が、逆恨みと自暴自棄からもう一度襲ってくる……あってほしくはないですけどね」
念のためまだ見周りの為に衛兵の歩いている道を選んで最初に向かう先は、当然ながら宿だ。紙屑を燃やして空いたストレージにいかがわしい本を回収しておかないと、この街に汚点を残してしまう。
「二度と足を向けないつもりなら……無理ですよね」
この街には、この街の貴族たちの住む区画にはミリティアが居るのだ。
「何かの間違いでそれが伝わったら――」
僕は臆病者だ。だからこそ、想像するのも怖いということがある。
「はぁ」
本音を言えば、戻ることには抵抗感があった。それでもバレるよりはマシという思いが僕の足を動かし。
「た、ただ今戻りました。予定が変わって――」
宿に戻った僕は、荷物の一部を取りに来たことを伝え。残りも別の人がとりに来ることと、ムレイフさんの容姿を伝えた。
「よくよく考えると、ムレイフさんの偽名とかも考えておくべきでしたよね」
ふと思い至ったのは、部屋の鍵を受け取り、廊下を自分の部屋へ向かう途中だった。
「なら、書置きを残しておきますか」
本を回収にムレイフさんがこの宿の僕の部屋へ立ち寄ることは確定している。偽名を考える様書置きを残し、偽名は合流後に教えてもらえばいい。
「ああ、髪型も特徴的ですし、頭を隠すよう言っておくべきでしたね」
これも書置きの内容に加えよう。もう遅いかもしれないけれど。