予定変更
「ええ。本の付加価値が上がれば相応の値段になりますからな」
僕としては望外の申し出だが、ムレイフさんとしてはどうせ売るなら高く売れた方が良いということなのだろう。
「あ、でしたら売る場所も古本屋では無く付与品を扱うお店になりますよね。僕、一軒は心当たりがあるんですが……」
「あるんですが?」
「最近強盗に高額商品の技能書を奪われたお店で――」
そこに本を持ってゆくのは具合が悪いかもしれないと僕は懸念をムレイフさんに伝える。
「ふむ、一理ありますな」
「ですよね。下手をすると犯人と関連があるんじゃないかと疑われたりしないかが不安で」
ムレイフさんは死んだことになっている人なのだ。
「元の付与者としての名前を使う訳にもいかないですよね? 大量に持ち込んだら怪しまれたりとか」
「むぅ、どうやら私が色々軽率だったようですな。すみません」
「いえ」
流石に拙いところが多いとムレイフさんも見たようだ。
「では本は普通に売却し、一部だけ残してそちらを付与品にした上でヴァルク殿にこの先立ち寄った場所で小分けして売ってもらうのが一番ですな」
「え? あ、そうか」
僕が本をムレイフさんに売ってもらうのとは逆の理屈と言うことだ。人相風体ムレイフさんそのままの当人が付与品を売っていたなんて証言が出ては死を偽った意味がない。
「では売る付与品は生前のムレイフさんから販売委託されたって形をとる訳ですね?」
「ええ。そうなってくると身内が分け前をよこせと言ってくる可能性もありますが――」
「まぁ、そこは仕方ないですよね」
元居た家での扱いはどうあれ、ムレイフさんが死んだということにするなら、それは形見なのだ。
「いえ、そこはきっちり販売委託したこと証明する書類を作っておきましょう。しわだらけの紙屑を伸ばしたモノと格好はつきませんが、紙なら燃やすほどありますしな」
「あ、あはは……けど、いいんですか? この紙屑、曰く付きのモノが混じってるかもしれないと――」
「ああ。ふふ、それなら心配無用です」
それを書類にしちゃっていいんだろうかと思ったのだが、ムレイフさんは懸念を笑い飛ばす。
「付与者としての力でその品を付与品にできるかと言うのが、おおよそではありますが感覚的にわかりますからな」
付与できるということはまだ力を持っていないモノなのでいわくつきのモノではなく、故にそう言ったモノを選んで書類にすればいいらしい。