おねがい
「ムレイフさんに頼みたいことがあるんですけど」
頼みたいことですかとオウム返しに問われて、ええと僕は頷いた。今のところ僕とムレイフさんと僕に接点があることは知られていない。これはある意味好都合だった。
「これから街に戻って旅の準備をしたり不用品の処分をする訳ですけど、実は最近もめ事に巻き込まれたことがありまして、足を運びづらい場所があるんです」
「ほほう」
「無論、報酬と言うか手間賃は払いますから――」
そう前置きして僕が頼むのは、宿においてきた本でも他者に見せて大丈夫な系統の本の売却だ。
「それで、売ったお金を使って旅に必要な品も買い込んできて欲しいんです。売却金額のうち、必要なモノを買って残ったお金はムレイフさんへの手間賃と言うことで」
「なる程、ヴァルク殿と面識のない私であればヴァルク殿が出会いたくない人間が居たとしても問題なく用を済ませられると」
「ええ。預けてる宿に一緒に行ったら関係があることを知られてしまうかもしれませんので、僕が一足先に宿に向かって、ムレイフさんの特徴とか事情の方は話しておきますから」
ムレイフさんは僕がいかがわしい本だけ回収した残りを処分、お金に変えて旅支度を整えてもらおうという訳だ。
「ヴァルク殿はその後どうされるのですかな?」
「あー。働かないかって誘ってくださった方とか、ギルドとか、に手紙ではなく直接挨拶しておこうかと」
ギルドの方は利用者に絡まれないか不安ではあるのだが、どう考えても僕の方が時間が余ってしまうし、流石にムレイフさんに雑務を任せて一人何もしていないのは後ろめたく。
「承知いたしました。が、一つ提案が。本がたくさんあるということですが、それを幾つか付与品にしてはいかがですかな?」
「……え?」
「髪を代償にする付与ですと、千切ったページを小さな火球に変えるくらいの消耗品しか作れませんが」
「いいんですか?」
突然の提案にあっけにとられた僕が我に返って聞き返すと、ムレイフさんはもちろんと頷いた。